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足切りのクマは、斧を握る  作者: パスカル


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第5話 低層検証と、勝手についてきたチンチラ

朝、目が覚めたときに最初に感じたのは右手の指の感触だった。


チロがいつの間にか右手にくっ付くように寝てた。


あの後、帰ってきたときは血こそ洗ったものの、

指はまだ再生しきっていなかったから


指が生えてきたのが珍しかったのかもしれない


意識失ったら【オートリペア】の再生がそのまま続くか分からんから


何とか生えてくるまで寝るの耐えて頑張ったからね?おれ。


ギルドだと欠損の再生まではやってくれないからね

「……贅沢は言えんな」


手元で丸まっているチロを元に戻った右手で優しくなでた後。

シャワーを浴びてチロと自分のご飯を済ませる。


「朝ご飯だよ。今日も行って来るから」


エサを足して、水を替える。


珍しくベッドで寝てたからいつもの寝床で寝なおしたのか


「チロー」


返事はない


「行ってくるからねー」


まぁそのうち食べるだろ。いつもの荷物をまとめてギルドに向かう。


何度も言うが金がない、金の話をすると長くなる。

だから長くしない。


昨日のゴブリンの魔石1個あたりで大体500円 



「やっす」 

安すぎ、俺の渾身の熱いバトルは何だったんだ。


このインフレダンジョン都市でこれじゃ生きていけない

チロのエサ代もろもろもある。


まぁ最後のゴブリンはやっぱりレベルが高かったらしく

高めで買い取ってもらったが、だとしても足らない。


服だって学ランの上に安いサポーター付けてたが、

ちょくちょく裂けてるし見た目もそろそろマジやばい。



期限は迫ってる。

働かなきゃ終わる。


「今日から検証と実践だ」


昨日はトラブルで死にかけたが。


昨日までは「生きる」が先だった。


今日からは、その延長で「勝ち方を増やす」


足切り。

[心得]に体を預けて、斧の刃を関節へ置くやり方。

下半身を真っ二つにする半歩の地面反力は

切り終わりの制御がまだ甘い


タイマンで尚且つ周りの安全が確保出来たら使うようにしないと、

外した時点で死ねる可能性がある



次に拳による打撃。

リーチは短いが斧より確実に後の先をとれて、

コンパクトな一撃と斧の苦手な超近距離に使える。




どの敵に通るか。


失敗したらどうなるか、やるしかない。


金の為に。


世知辛いなぁ。




ダンジョンの一層は、相変わらず臭い。


ゴブリンのせいかと思えてきた。


何故かって?


さっきからゴブリンばっか連続で出会って倒してるから。


流石に昨日の3匹一緒は無かったが


入って最初に2匹きやがった


幸運Fぅぅ


けど、今の俺にはゴブリンが金にしか見えなかった

締めて1000円が走ってきてらぁ


無手の通常ゴブリンに今更日和らなかったし

昨日からより意識した[冒険者の一つの心得]の体の制御で

意外なほどにあっさりやれた。


朝から不思議だったが。体が明らかに軽い。

二匹をやった後に、一匹だけおかわりが来たので

深めの半歩の横切りを試してみたが予想より

重心が崩れなかった。


たぶん昨日の戦闘でレベルが上がっていると思う。

体幹がよりしっかりして腕力と一緒に

制御できている。後でギルドで鑑定してもらおう。



その後


薄暗い通路を十歩。


そのときだった。

         

背中のリュックから、小さな震えがした。


心臓が一瞬止まる。


「……っ」


声は飲み込んだ、角の向こうに何がいるか分からない。


震えは続く。

ファスナーの付け根、お気に入りのサイドポケット。


何かが蠢いている。


プゥ、と。


アラームみたいな鳴き声が、布越しに押し出されてきた。


「お前」


喉の奥で呟く。

舌が乾く。


チロだ。


ポケット奥に潜り込んで、陰で丸まっていたんだ。

朝の支度のどさくさに紛れて。


戻るしかない。


今ここで騒げば、俺が死ぬ。

チロが死ぬ。


「……どうして」


声の量は殺している。


リュックを背中のまま、片手でポケット口を押さえる。

指先に、小さな体温が当たる。


「静かに。出るな。鳴くな。……頼む」


合図なんて通じるわけない。

通じないのは分かってる。


それでも、約束みたいに言い聞かせるしかなかった。





来た道を戻る


またゴブリン1体、こん棒もどきを持ってる。

さっさと処理する。


間合いに入った瞬間に切り飛ばす。

けどなんだ?見てると違和感がある。


気のせいか?考えてても。ゴブリンがこん棒を振りかぶりながら

間合いに入りそうになる瞬間にスキルを一気に並列起動。

切り替える、やるだけだ。


「ギャ?」


 は?


「こいつッ」


止まりやがった、間合いの手前で。

いや、近距離でよく見るとさっきの違和感が分かった。

筋肉の付き方が微妙に違う。

得物も他のゴブリンと違ってただ振りまわすだけじゃなく

振り下ろす直前で停止したフォームは

付け焼刃だが理にかなったように見える。


栄養のつくものをいっぱい食べたのか

野生の勘か知らんが

俺の間合いか魔力に反応して止まったのは明らかだ


どうする。こっちは早く帰って説教しないといけない。

捨て身覚悟で踏み込んでやるか?

けど相手は鈍器だ、頭に良いのもらったら

ワンチャン意識が飛ぶかもしれない。


迷いながらも軸足を少し動かした瞬間。

ゴブリンは振りかぶり途中だったこん棒をそのまま

俺の方にぶん投げてきた。


「ッ!」 


別に油断してた訳じゃないし、俺だって構えてた

だから左腕と柄でガードは間に合った。

けど奴が視界から隠れたところで距離を詰めてきて

柄を握って組み付こうとする。


「てめぇは汚いこん棒使ってろ!」


なめんな!最近何回この状態を対処したと思ってる


こっちはクソ客クレーマーゴブリンに容赦しない、

クリーン商売やってんだ!


早く潰れて掃除されろ。


いくらレベルが上がっていようと万全の状態で負けねぇ


そう思っていた時に


リュックから何故かチロが飛び出した



左サイドポケットから俺の肩を伝い


ゴブリンの頭に齧りついた。


「ギギャ!?」


ゴブリンと俺の力が緩む。


ダメだ。目が離せなかった。


あの時の右手の指の痛みが戻ってきたみたいに右手が熱かった。


奴の口がチロを噛むような幻想を見る。





動けよ。


自分の中のスイッチを入れて思考を切り替える、全身が熱くなる。

また眉間に皺が寄ってるのが分かる。


体とスキルを強制的に動かす。


斧はいらない。体動かせ。


俺は右手の抜き手を奴の喉仏あたりに打ち込み、苦しむ口が開き最悪の未来は遠のいた。


「お前のご飯じゃねぇんだよ!!」


ゴブリンが苦しむのと同時にチロが地面に落ちる。


今は構ってやれない。 


抜き手の終わった右手で首を、左手で左肩を掴む。


苦しむゴブリンを引き寄せつつ、斧の構えで引いていた右膝を


胸部に炸裂させた。絶対殺した。心得先生の拳より手ごたえがあった。


ゴブリンの死に際なんざ無視だ。



だから。



「チロっ」


すぐに見つけた、ダンジョンに似つかわしくないフワフワが目立ったから。


「大丈夫か!?お前っ、何やってんだよ、さっきまで言う事聞いて大人しかったのに」


「ぷぅ?ぷぅぷぅ」


チロは幸いすぐに返事を返した。


目立った怪我は無いか、抱えあげて素早く確認して地面に置く。


俺は安心して地面に手を付いて大きく息を吐いた。


「死んだと思ったぞ~」


「ぷぅ?」


チロは突っ伏す俺の右指をペロペロなめる


「どうした?」


聞いても返事はないが必死に舐めてる。


抜き手で怪我した中指と薬指。


「心配してくれてるのか?」


朝の事を思い出す。


そういえば珍しくベッドの右手近くで寝てたはずだ。


そこから今日隠れて付いてきて


昨日指欠損させた俺が


「また怪我しそうになったからゴブリンに飛びついたのか・・・」


「ぷぅぷ?」


「いや、ありがとうな」


心配かけた分撫で返す。


「助けられたけど、帰るのは確定事項だから、拾い物してさっさと帰ろう」


落とした斧はすぐ近くにあった。


ゴブリンは膝蹴りした後見てないから魔石がどこにあるか分かんなくなった。


「ぜったいレベルアップ個体だったのに、すぐ見つからないなしゃーないな」


少し遠くでチロがうろうろしてる。


「チロ、さっき危ない目にあったばっかだろ、帰るぞ」


チロを捕まえる。


するとどうでしょう、チロの口元に見覚えのある紫色の魔石が。


「見つけてくれたのか!ありがっ」





飲み込んだ



何を?


魔石を


誰が?


チロが



「なッ何してんの!?吐いて!!今すぐ吐いて!!!」

なるべく小声でお願いするが伝わってない。


ごめんと思いつつチロを逆さにする


「出てぇお願いー」優しくお腹をとんとんする


ダメだぷぅぷぅしか出てこない。


上で見てもらうしかない。


どうせ鑑定してもらう予定だったんだ1人に追加でチンチラ見てもらうぐらいやれるだろ


てかやってくれ。


急いでチロをリュックに入れてダッシュ。


リュックの中でチロが鳴くが目の前からゴブリンが来た。


止まってられない、それに向こうは無手。止まる理由更に無し。


スキルはすでに全部並列起動。


そのままショルダータックルでぶちかました。

またもや心得先生の効果が出て感動したが


今は置き去りにする。


次の曲がり角が見えてきた頃にチロがぷぅぷぅ大きめに鳴く


何事かと止まってリュックを開けた


「吐きたくなったのか!?」


チロをリュックから出してやると、そのまま角まで走っていった。


「おいおいおい頼むここでしてくれ」


曲がり角まで走ったチロが止まり、またぷぅぷぅ鳴く


「?、出なくなっちゃったか?」


そこでチロが鼻をひくつかせ曲がり角から顔を出して奥を見る。


ゴブリンがいた、それも2体。


あぶな。


群れで良すぎだろ。


チロをしまって動く。

あの時と同様、投石で一匹をノックダウンさせて処理し、

その隙にもう一匹を確実に仕留めた。

出口のほうまで距離が縮み、足がもつれる前に階段を上がって

ゼロ層を抜け、半円の門を出た。


街の空気が肺に入った。



待ってろチロ今すぐ見てもらえるからな!!








「帰ってきた…」


結構むちゃしたけど大きな傷はしてない

細かいのはほっとけば直る。男の子だからね。


それより早くチロを鑑定してもらわないと。




鑑定は少し特殊で神瞳族という種族が担当している。

この種族も重層化で転移してきた少数の希少な種族。

この特殊で希少な種族、なんと外見は全員ばらばらなのだ。


当たり前だと思うかもしれないが

マジでノーマルの人間・獣人・エルフ・ドワーフ・妖精。

全部の見た目の神瞳族がいるのだ。



けど見た目はかなり分かりやすい。

生まれた時から

額にそれぞれ瞳のような独特の文様が現れる。

優劣は無いが文様が複雑なほど分かる情報量が変わるとか変わらないとか


辺境の村でも生まれたときは大騒ぎになり

大きい都市のお偉いさんが直々にお迎えに来るぐらいの

ビックイベントらしい。

それぐらい重要視されているのが神瞳族



実際に本人が鑑定しているわけではなく

額の文様を通して神様に問いかけ、神様から情報を受信するそうだ。


そう神様だ。

神様いないじゃん言われるかも知れないが

居たんだ神様、異世界住みだけど。


なんでも異世界では当たり前の存在で

人々は当たり前にそれぞれの自分なりの信仰する神様を決めている。

神瞳族も生まれた時からつながりの強い神様を主に仕えるように

過ごしている。

重層化の影響でこの世界でも重層区の中なら異世界の神様と繋がれるらしい。


この神瞳族、鑑定以外にもマジの神様からの天啓を頂く事があるらしく

だから辺境だろうと何処だろうと重宝される。

だからと言って道具のように扱えば恐ろしい天罰が

起きるらしい。


マジの天罰怖すぎだろ。


だから神瞳族の額の目は神様の目と言われており

みんな尊敬と畏怖を忘れず接している。





神瞳族も無限に鑑定出来るわけでもなく

やりすぎると負担大→神様「え?不敬?」→天罰。

って流れになりかねないのでいつでも出来るわけでは

無いので受付をしないといけないのだが。



「この間の怖いエルフさんの受付が一番空いてら」


最悪やん。

怖すぎて二度と顔合わせしないって決めてたのに。


しかもチャラ付いた男ばっかで、気のせいか

お姉さんの顔がたまーに自動修正が入って笑顔が

更新されていき、より完璧な笑顔を作り上げていってる。


「やばぁ」


なんで話しかける事が出来るのか

訳が分からない。

他の列に並ぶ人達も心なしか見ないようにしてる気がする。


「ぷぅぷ、ぷぅぷ」


いや迷うなバカ。

チロの命が掛かってんだ。男は度胸。

クマ、行かせて頂きます。


「「!?」」


サイドの列からマジかお前みたいな目線を貰う。

いや何なら小声で言ってる。音漏れしてるよみんな、ミュートしろ。

聞こえてるって、抑えてください、お姉さんの怒りが上がったらどうすんだ。




処刑を待つ死刑囚みたいに自分の足元を見ながら時間だけが過ぎ、自分の番が来た


「次の方どうぞ~♪♪」


やべぇっ、なんか声聞いたら更に震えが出てきた。

前回もだがやっぱり何か威圧みたいなスキルでも使ってんのか怖すぎる。

リュックの中のチロも少しガサゴソしてる。

てかヤケクソなのか営業モードの服屋の店員さんみたいな口調も拍車をかけてる。


俺は早口で

「すいません、自分と相棒の鑑定をお願いしたくて」


「分かりました♪もう一人の方は同じパーティメンバーの方ですか~?」


「いえ、その。」

前にリュックを回し、中からチロをだして見せる


「この子が間違えて魔石を飲み込んじゃって・・・」


「………」


沈黙が怖い、本当ダヨ、信じてお姉サン。


沈黙から数秒。

「鑑定の前準備として触診をしてもよろしいでしょうか?」


「えっ」

何か普通の声に戻ってる。

何だ?何が狙いだ?人質にでも取るつもりか?


「宜しいでしょうか?」


「ハイ」怖っ


少し視線を上げお姉さんの手元が視界に収まるようにする。

お姉さんに揉まれ、いつもみたいにぷぅぷぅなくチロ。

ハラハラする自分。

どうなってんだ早く終われこの時間

チロっ、頼むから噛んだりするなよ。もうその人と会うことはないからな。



待つこと数秒

「触診終わりました。」

楽しそうに触ってただけじゃね。

チロも嫌がってはなかったし。

もういいや早く行こう、少しでも早く離れたい。


「番号札を持って鑑定室に進みください。」


「ありがとうございます。」

よかったー、チロを受け取り、足を動かそうとすると。


「ところで」

ん?デジャブか?


「なんでずっと下向いているのですか?」


「………」(だって怖いから)


俺悪いか?あれだけ威圧されたら誰でもこうなるのはしゃーなくないか?

絡み続けたナンパ野郎達は感性がいかれてるとして

常人の反応だとは思います。

とは言い返さないが。

分かるよ?ナンパされまくって気分良くないのは。



ごめん強がった、された事ないから分かんないけども。

だけどここは穏便に、ずっと下を見ていた俺も悪かったと謝ろう。

見てろよ国家権力ぅ、媚を売り倒したらぁ。


「申し訳ありませんでした!相棒の体調が心配で気が落ち込んでいまして」


チロの事が心配で食傷気味をアピールしつつ。


「前回お姉さんに注意されて反省したのですが、やっぱり美人さんを前にすると

また粗相をするかもしれないので結果こうなりました。」


(前回の注意は忘れていません。ですがお姉さんやっぱり美人ですので反省と改善と今の自分の状態から導き出した結果こうなりました)


完璧だ!!よくやった俺。

後は許しを貰い立ち去るだけ。お疲れさまでした。




「私には最初から嫌々列に並んだように見えましたが?」


「・・・そんな事は」


「その子の為に嫌々人数の少ない列に並んだのでは?」


「………」

やばい返しに詰まった。終わった。


「はぁ、まぁ今回は私の魔力の圧に臆せずその子の安全を優先したことに免じて許してあげましょう」


「……っ、ありがとうございます!そ、それではこれでぇ」

魔力で威圧してたんかい!!

絶対二度と並ばねぇ、クソお世話になりました!!!


「それではクマさん、相棒さんと一緒の時はまた私の受付にいらしてくださいね?」


「え」 やば声出た、さっき出なかったのに。


「ん?」(魔力の威圧)


「もちろんっすよ!、あぁ!チロが鑑定されたそうにしてるそれでは」


悪魔の契約しました、ごめんチロ。





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ここまで読んで頂きありがとうございました!

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