第13話 加護と魔法と黒穣の森
いきなり「あなたは女神に認められたから、加護を受け入れて派閥に入れ」ってな~に?
いや、言われて数分は無言で考え込んじゃったけど、本当によく分かりませんでした。
考えている最中なのに、話の説明は一切なしで「ふぅ、やりきったー」みたいな雰囲気を出さないでくれませんかね。イライラするんですけど。
あと――
「あの、さっきからなんでこっちを見ないのですか」
「……怖いから」
「俺がですか!? 何処が!?」
「そんなボアの毛皮を着込んでいるから」
「……」
そっとボタンフードを外します。
何てこった。俺が論破されるとは。やるやん、この人。さすが使徒というところか。
今まで注意されなさすぎて、気にしてなかった。
ヤバいやつ扱いで無視されてた、とかないよね?
「あと、人見知りだから人の目を見るとか無理。他にも理由はあるけど」
やっぱこの仕事、向いてないじゃん、それ。
俺が入ってきてここまで評価最低レベルなのに、大丈夫そ?
あなたの悪いところを見せつけられて、自分の派閥に入れと言ってる人に勧誘されてる俺も、大丈夫そ?
話は聞くだけ聞いて、ヤバそうなら拒否るか。
「え~っと、取りあえず神様の加護っていうのは、どのようなものなんでしょうか?」
「……ぐっ」
無理に顔を合わせようとして、言葉に詰まっている。
努力は認める。でも絶対無理でしょ。こんなまま会話したら、日が暮れちゃう。
「分かりました! 俺、後ろ向いてるので、それなら話せますよね。チロもじっとしててね」
「動物は大丈夫。その小さな子は、こちらに」
なんでやねん。だめだ、突っ込んでたきりがないから、チロをテーブルに置く。
俺はそのまま、椅子ごと後ろを向いて座った。
「はい、どうぞ!」
「ボアフードが、こっちを見ている」
フードを被り直します!!!(怒り)
ダメだ、怒るな。こんなんでも使徒だぞ。天罰をもらう可能性だってあるんだ。
今後出会っても、最速で鑑定してもらえる体勢を知れただけで良しとしよう。うん。
「お願いします!」
「分かった。まず我が主は黒穣神ノクティア様。黒土・闇・腐敗・悲運・試練・再生・罰「実らなかったもの」を司る神」
なんか、聞いてるだけで親近感が湧く単語が、二個ぐらい出てきたな。
「本来は、我が故郷の辺境の地で、荒れた土地や過酷な環境で生きる者たちに信仰されてきた神様。その中でも主は、悲運に立ち向かう者たちを救うべく、お力をお使いになる。だから、あなたは選ばれた」
おいおいおい、お祈りが利いたのか!? ここにきて、頭痛の種の幸運Fとさよならか!?
言ってくれれば、お別れ会ぐらい開いたのに。達者でな、ありがと、返ってくるなよ。
「ぜひ俺を不運からお救いください、ノクティア様、ノアリア様」
勢いよく、頭を誰もいない入り口側に下げる俺。
「別に、加護で運は改善されない」
頭を上げます。誰もいない所に頭下げて、何やってんだ俺は、情けない。
幸運Fが、腕組んで笑ってら。
「運のステータスは、スキルや魔法の発現のしやすさにも直結する。また、日頃の出来事にも、大なり小なり」
いや、幸運F死神やん。腕組むなよ、鬱陶しい。お祓い行こうかな、マジで。
サブウェポン購入より、重要度が爆上がりしたぞ、これ。
「ただ、最初に言ったように、悲運に立ち向かう力を与えてくれる」
「といいますと?」
「スキルをもらえる」
「末永くよろしくお願いします!!!!!!(爆音)」
「ヒッ」
「ぷぅ!」
やば、あまりの嬉しさにでかい声を出しちゃったから、ノアリア様を驚かせちゃった。チロも、心なしか怒ってる気がする。
「あまり大きな声を出さないでほしい」
「すいません」
普通に反省する。
「ふぅ、続けるよ。ただ、このスキルがもらえるのにも条件がある。それは、試練を乗り越えることだよ。悲運の道を乗り越えた者に、これから続く試練に立ち向かう力を与える」
試練、どれだ? 重層化? クソ兄貴に裏切られたこと? パーティから追い出されて、次の日に死にかけたこと? ボタンに引き殺されたこと?
どれ? 心当たりがありすぎるぞ。
まぁいいや。とりあえず話を聞く限り、底辺幸運ステータスのデメリット――悲運の出来事を乗り越えることで、スキル・魔法の発現率の低さを補ってくれる、って話か。
どっちかっていうと、悲運の方をどうにかしたかったが、そこはもらえる力で補っていけると信じてるぞ。
直近だけで、あんだけ大変なことがあったんだから、スキルは二個や三個もらえるっしょ、たぶん。
「あの、今更ですけど、あまり自分は信仰心がある方ではないんですけど、大丈夫でしょうか」
「大丈夫。あまり神様は、そういうのを気にしない。だからその代わり、与える対象には明確なラインがある。私達の場合は、幸運値の低さ」
嫌な選考理由を聞けたところで、心配事は消えた。
「それでは、自分は何をしたらいいでしょうか。契約書、必要ですかね」
「必要ない。こちらを向いて、目をつぶって跪いて、ノクティア様に御目同視する」
言われた通り、目をつぶって跪く。
「「いくよ」」
――なんか、声がダブって聞こえた。
目を瞑った暗闇の奥に、赤い三日月が見えた気がした。
見ていると、視界とは裏腹に頭の中が真っ白になり、自分が自然と震えていることが分かった。
赤い三日月の外側の闇に輪郭が出てきて、それが笑っている人に近い何か、ってだけ分かった。
その何かから、恐らく手が伸びてきて――
現実の、自分の頭の上に置かれた。その手が、持ち主の存在の重みを感じさせるほど重く、そのまま地面にゆっくり押しつぶされるような錯覚をした。
「終わったよ」
「目を開けていいよ」
声を掛けられ、恐る恐る目を開けると、木製の地面が見えて、今自分がここにいることに安堵する。
呼吸が戻る。息苦しさは、何処からか。呼吸を忘れていたのだろう。
「今、のは?」
「ノクティア様」
冗談だろ。イメージとかけ離れていたぞ。何と契約したんだ、俺は…。
「ようこそ、我らが黒穣の森へ」
恐る恐る顔を上げると、
微笑むノアリア様が見えた。
目元を隠し、微笑む口元が、
何処か、先ほどの暗闇の中の赤い月を連想させて、
声は出せず、俺は顔を引き攣らせることしかできなかった。
◇
「これがクマくんのステータスになります」
「急に普通に話すようになりましたね」
「君はもう私の派閥だからね。それに、鑑定やノクティア様を通じて、君の人となりを知ることもできた。でも、あまりこちらは見ないでね」
こっちは加護をもらったのに、若干後悔しているのに、暢気なことだぜ。
明らかに、こっちのことを見て笑ってたぞ、あの神様。
とりあえず渡されたステータスを見て、心を落ち着けよう。
間違いなくスキルか魔法はもらってるはずなんだ。
それを見てから、後悔しても遅くない。
クマ:レベル 5→7 ステータス
| 項目 | 評価 |
| -- | -: |
| 攻撃 | B(61) |
| 耐久 | A(69) |
| 器用 | C(49) |
| 敏捷 | D(36) |
| 魔力 | B(59) |
| 幸運 | F(16) |
| スキル | Lv | 説明 |
| ------- | -: | ----------------------------- |
| — | 武器の心得、観察の心得、魔力の心得new |
| 2→3 | 持続回復+再生 スタミナ・魔力微回復 |
| 1 | 発芽・活着・促進(試練系統) | new
称号
《黒穣神ノクティアの加護》|試練系統の適性微増、試練を乗り越えた際のスキル取得確率上昇
「はい?」
おい、待ってくれ。は? え、は?
いや、いいや。順番に行こう。何事も順序がね? 大事だからね。
毎回驚かせてくれるな俺のステータスはグヌヌ。
まずは《冒険者の三つの心得》に変化している。偉すぎる! さすが心得先生なんですか、魔力の心得って!
説明してください、ノアリア様。しれっとチロを触ってないでさ!!
「あなたは良い子ですね」
「ぷぷぅ♪」
まぁいいや。チロも嬉しそうに女子会してるし、後でまとめて聞こう。
次に《オートリペア》がレベルアップ! そりゃあんだけ怪我すれば上がるわ。
納得しかない。
これからも頼らせてもらうよ。
追放するとき、俺にふざけた二つ名を付けたヒスイと大違いだぜ!
はい、最後に問題の《芽吹きの魔法》です。
え? は? マジ、何これは? は??
まず、もらえるスキル一個かよ。何してん、俺の人生、十分波乱万丈だったと思いますけど?
最悪、もらえるの一個なのは許容するとしてよ? 神様視点のハードルの高さを求められたら、そりゃ納得するしかないかもしれない。
非常に、遺憾だが納得しよう。
だけど何?《芽吹きの魔法》|1|発芽・活着・促進、って。
完全に植物栽培系やん。内容の説明もいらないぐらい分かりやすい魔法と、説明しやがって!
なんの試練のご褒美だよ! あれか! 金欠で貧乏生活が可哀そうだから、野菜でも育てろってか!
マジで言ってんのかよ。組合とかないのか? 労基案件だぞ。言葉を濁さず言うと、悍ましい神様と契約して、得られたのが栽培って勘弁してくれ。
しかも植物関連なのがヤバい。何がヤバいって、重層化が始まってからの初期に現れた[ある人物]のせいで、植物系のスキル・魔法持ちは、ある種の危険人物扱いされるようになってる。
鑑定で知られたら、国のリストに載るぐらいヤバい。ほぼ半テロリスト扱いされる。
なんや、この黒穣の森とか言う派閥。俺に絶望しかくれんやん。
ダメだ、これ解約しよう。このサブスク。入会した後にデメリットがあれよあれよと出てくる。
実家でたまに来てた営業マンに騙されたみたいな気分だ。初回の金額だけ安くて、その後、結局高い金額を払わせられる感じ。
とにかく断ろう。うん。
「あのぉ、ノアリア様? 自分、よく考えたら親がキリスト教徒で、ちょーーーーっと教えに反するというか、今思い出しまして、いっ「逃げられませんよ」 はい?」
「加護を一度受け取ったからには、そう簡単になかったことにはできないと言っているのです。もしどうしてもと言うのであれば、止めはしませんが、我が主の罰を受け入れる覚悟をしたほうが良いでしょう」
なんで、こんな怖い話をする時だけ、マジな雰囲気で説明してくれるのだろう、この使徒様。
てか罰ってなんだってばよ。確かに最初に言われたけどさ。
最初から「逃げるやつ許さねぇ」って言葉で言ってくれよ。ヤクザみたいなことせずによぉ。
「加護を返上しますか?」
「……ガンバリマス」
クッッッッッッソ!!!!
ダメだ、切り替えろ。せめてこの植物魔法が知られなければ、デメリットはなしで今まで通りだ。そうお願いするしかない。
「あのぉ、もう一つ相談なんですけど。この《芽吹きの魔法》って、明らかに植物系魔法じゃないですかぁ。まぁけど、見た感じ家庭菜園程度の効力なんで、ギルドに報告はやめてほしいのですが」
「報告しますよ」
「ヴゥッ」
ダメだ。自分の顔が、過去一不細工になってる気がする。
キレそうな自分を抑えるために、上と下の唇を全部噛んで耐えてる。
半テロリスト扱い、決定した。
なんだ、この使徒。マジで俺と一緒の派閥なのか? 優しさの一ミリも向けてくれないやん。
いつか人見知りを暴発させて、目にものを見せてやるよ。楽しみにしてな。ニチャ。
こうなったら、このブラック派閥の何かしらの特典をしゃぶり尽くして、利用してやるよ、クソが。
「すみません、ノアリア様。スキルをもらえる以外にメリットを聞いてなかったのですが、他にも教えてもらってもいいでしょうか?」
「メリットは大きく三つ。訓練と、専用の依頼と、鑑定の優遇。訓練は、私が相手をしてあげる。専用の依頼は、派閥にしかない国やギルドなど、信用のできる所からの大きな依頼を受けられる。鑑定の優遇は、スキルや訓練で感じたことを、適切にアドバイスしてあげられる」
「訓練は、ノアリア様が直々に相手してもらえるのですか?」
「不満?」
「いや、こういうのはもっと派閥の先輩とかが、まず相手になるとか思っていたので」
「……」
「ん?」
ん?
何、この沈黙。何か、痛い所を突かれたみたいな雰囲気を感じる。
「あの、他にどんな先輩がいるのですか?」
「今は、ここにはいないよ」
「ん? いや、どんな先輩がいるのかっていうのは、俺と一緒の斧を使ったり、
魔術の魔法をバンバン使える魔法使いがいたりとか、具体的な……」
「…今は、いないね」
え? おかしくない? 壊れたロボットみたいな返ししか返ってこないぞ。
もっと具体的な質問するか?
「今、派閥にいる先輩の名前を教えてくれますか?」
「……」(少し地面を見ている)
「っすーーーー」
これ、やってんな。何で下向いて黙ってんだ、この詐欺師。美人だからって(多分)やっていいことと悪いことがあるぞ。
次で化けの皮を剥がしてやるよ、狼女。人狼は吊られる運命なんだよ!
「この第七重層区に、黒穣の森派閥は何人いますか?」
「……二人」
「嘘じゃん。それ、俺とあんたじゃん」
「聞かれなかったから」
「確信犯やん」
だめだ。ブラック派閥って冗談で言ったけど、マジでブラックだったわ。




