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5話 調査と化け物

 段々春本番になってきて、日は長くなってきたとはいえ流石に仮入部とさっきまでの柊君との話で時間が経ち、もう少しで日が沈みそうだった。地図を片手に、スタート地点からゴールの公園までを1人で歩く。


 「騙された気分。そう思わない?てかそうだよね」

 「─!」


 私の話し相手として柊君から受け取った雪だるまが目の前をふよふよ浮いているから、それに向かって愚痴るととても激しくヘドバン(うなずいてるのかな?)してくれる。教室から出てそれぞれの目的地に向かおうとした時、他の式紙は紙に戻って柊君の手元に戻るのに対して雪だるまだけは私の傍を離れたがらなかったから、見かねた柊君が私に貸してくれた。

 GPSみたいな機能を取り付けたみたいだから、柊君としても都合がいいみたい。


 「私たちいいように使われてるよねー、もっと優しい人だと思ってたよねー?」

 「─!──♪」


 柊君みたいに雪だるまが何を言っているかわからないけど、私と雪だるまは意思疎通できてる…気がする。もし話せるようにもできるんだったら後でそうしてもらおう。柊君よりも仲良くなってやる。


 「名前付けてもいい?ずっと『雪だるま』って呼ぶのもなんか変だし。…安直だけど、雪とか?」

 「─────♪」

 「わわっ、『いいよ』ってこと?」


 自分でも安直すぎると思ったけど、思いのほか気に入ってくれたみたいで、雪は私の周りを楽しそうにぐるんぐるん飛び回ってる。周りに人がいたら大変だったけどもう暗くなる時間だからなのか人はいないし、もし人がいても見える人はほぼいないらしいから私さえ変なことをしなければおかしな人に見られないはず。


 「それにしても変な地図だよねぇ、ここら辺とか遠回りじゃない?」

 「──♪」

 「だよねぇ」


 地図の通りに歩くけど、道順は最短じゃなかったりしてて気になる。絶対遠回りなことがわかってるのにそっちに行けないのモドカシイ。

 でも、柊君から釘を刺されてるからこの通りに進まないと多分怒られる。自業自得なところもあるけどホント変なことになってるなぁ。


 「…そういえばさ、結局なんで私は雪のこと見えたんだろね?」

 「───?」

 「わかんないか、『私に聞かれても』だもんねぇ」

 「─!」


 柊君に聞いた時も「なんで、なんでしょう…ねぇ?」ってわかってないみたいだったから私たちがわかるわけないか。雪も少し考えてくれたみたいだけど反応がイマイチだったから多分わからないんだと思う。


 「─えっと?次が…こっちかな」


 「次は左」


 「右曲がってすぐ左、そのあと突き当りを左?」


 教科書が入ったバッグとかは柊君に任せたから身軽だけど、まだ履き慣れてないからローファーで歩き続けるのも疲れてきた。住宅街だからあんまりうろうろして変に見られてもヤだからさっさと公園まで行ってしまおう──?


 おかしい、そろそろ日が沈む時間ってことは家に帰る人が沢山いるはず。学校の近くは他の生徒とか通行人は沢山いたしすれ違ったのにちょっと前から誰ともすれ違っていない。それに今気付いたけどさっき見た時から全然日が沈んでないしちょっとも暗くなってない?


 ─からからから


 「──!!─!」

 「えっ?どしたの?」


 よくわからない嫌な感じが背筋を撫でて気持ち悪い。さっきまで楽しそうにしていた雪が私を急かすみたいに前を素早く漂う。


 ─からから、キィィィ


 ドラマで聞いたことがあるけど、金属バットとか金属がアスファルトに擦ったような音が辺りに響く。雪はずっと前を浮かんでいて私を急かす。周りの家を見回しても人の気配がしない。


 不安になって雪に近づこうと駆け出した時、嫌な音と気配は後ろに集まって、そこで止まる。なぜだかすぐ傍に寒さを感じて体が震えるし、気づかないうちに手汗をかいていた手の感触が気持ち悪い。


 ──振り返るのはだめ。


 そう思うよりも先に振り返って見てしまった。


 感じていたより遠いからはっきりはわからないけど小学生くらいの身長、体の輪郭は黒い靄でぼんやりしている。─それよりも明らかにおかしいのは“両腕の肘から先が鎌のような形”だということ。


 見るだけでもじっとりと嫌な感覚が襲う“それ”が私の視線に気付く。


 「──っ!!」


 向こうが私のことを見る前に、バレーで鍛えた脚を全力で雪のいる方向に動かしていた。雪は私が近づくと私が手に持っている地図を飛びながら確認して先を進むから雪を頼りに震える手で地図を雪に見せながら走る。走る。走る。


 ─ぺたぺたぺた、からからから


 そこそこ距離はあったはずだし、私の方が一歩が長いから追いつかれるはずはないのにどんどん音が近くなっている気がする。音が近くなると嫌でも“最悪”をイメージして体が重くなって呼吸が浅くなるけど、雪を信じて前だけを見て走る。


 「はぁっ、はあっっ!!」


 ローファーが邪魔、スカートも邪魔、制服も重くて邪魔!!

全速力で逃げることに向いていなさ過ぎる服装だけどそんなこと今はどうしようもない。ただひたすらに走って、柊君が待つ公園まで行かなきゃいけない…!


 音が遠くなった気がして、記憶していた地図ではもう少しで公園に到着することがよぎって、もう一度振り返ってしまう。


 「──え、」


 確かに追いかけてくる音は遠くなっていたはずなのに、振り返るとすぐ後ろにあの化け物が両腕を振り下ろす寸前だった。背は私よりも低いのに持ち上げた腕は私よりも高い位置にあって、鋭くて、私なんか簡単に斬れちゃいそうで、初めて見た化け物の顔はどこまでも嬉しそうな顔で見ていて、酷く歪んだ赤黒い靄が私の視界を覆いつくして、


 しぬ?


 「──!!」


 走るために全身に込めていた力が、私が初めて感じる感覚に停止しかけた時。私の前を進んでいた雪が化け物との間に割って入って眩しく一瞬光った。冷たい光が化け物を怯ませてくれて、振り下ろた鎌が私の髪を掠めてアスファルトに簡単に刺さる。


 行きつく暇もなく再び私の前を飛ぶ雪についていくと公園の標識が見えて、ようやく終わりが見えてくる。もう音を頼りに距離感を測れないことが分かった以上、時々こっちを見てくれる雪に追い付かれているかの判断を任せるしかない。


 もう息が限界を感じ始めた時、直線の先に公園があって─、柊君も公園の中で待ち構えているのが見えた。いつの間にかに再び近くに迫っていた化け物を雪が怯ませてくれるのを背中で感じながらまっすぐ走り抜ける。


 「っ…!はぁっ!!」

 「おつかれありがとう」


 柊君の後ろに隠れるようにして、できる限り大量の酸素を吸おうとするけどなにか胸につかえている感じがして上手く呼吸ができなくて苦しい。視界は白くちらつくし心臓の音がうるさい。


 「大丈夫、後は全部やるから安心してください」


 化け物は公園のすぐ傍まで来ているのに一切気に掛ける様子はなく、私の背中をさする柊君。さっきまでの不安と恐怖がほんの少しだけ和らいだ気がするけど震えは止まらない。何が起きてるかわからないし、“最悪”を想像してしまってからずっとこびりついた恐怖が離れてくれない。


 「──?」


 気が付くと雪が私の目の前に浮かんでいた。雪は私を見てから柊君から離れた位置にゆっくり移動して、私を見つめてる。「こっちに来て」と言ってそうな雪に従い、まだ呼吸が整っていないまま歩いて雪の近くに寄る。


 ──視界の右端に突然出てきた赤黒い靄が、私がそれに反応するまでの間に吹き飛んでいく。代わりに視界に現れるのは一歩も動いていなかったはずの柊君。


 吹き飛んだ先で土煙が上がる一方で、柊君はじっと土煙の中を見つめていた。


 「ベタだなぁ、獲物だけ狙うから横槍入れられるやつ」


 土煙が晴れて中からさっきの化け物が現れて、柊君を見て地団太を踏んでから今度は柊君に向かって両腕を振り回して走るけど、柊君も距離を離したり簡単に躱して逃げるから全然当たる様子がない。

 めちゃくちゃに振ってるけど鎌はアスファルトにスっと刺さるわけだから、もし当たったら大変なことになるというのに、柊君は緊張感のない身のこなしで全部対処する。


 避けながら柊君は化け物に向かってなにかを話しているみたいだけど遠いのと化け物が腕を振る音でなにも聞こえない。


 「南さん、やること終わって今から退治するんで見たくなかったら目閉じててください」


 さっきまで離れた位置で化け物の攻撃を避けていた柊君がいきなり私の目の前に立って化け物と睨みあう。やることって?目を閉じるってなにが起きるの?そんな質問をする余裕はなくて、ただ目の前の光景を見守ることしかできなかった。


 後ろからだからよく見えないけど柊君が両手で顔を覆うと、柊君を中心にしてさっきまでの嫌な空気が違うもので塗り替えられる。不気味な感じだけど体の芯から震えるような気持ち悪さはなくて、その代わりになにか安心できるような温かさがあった。

後1話です。頑張ってください

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