4話 私、巻き込まれました
「さっき言ってた『ようりょく』?…って結局なに?」
「…ま、そっすよね馴染み無いのが当たり前ですもんね」
すっと受け入れそうになってたけど、やっぱりどういうものかは知らないし言葉の意味から分からないのは困る。そう思って頭に浮かんだものから質問攻めを開始。
「さっきも軽く言ったんですけど妖力は『妖怪の力』ってことで、ゲームとか漫画とかで出てくる不思議な力と同じと思ってもらえたらイメージしやすいかもしんないです。『科学で説明できないし見つけられない幽霊』とか、そんな感じのふわっとしたもので、なにができるかとかも人によってまちまちという、そんな…あれです」
「ざっくりだね。『人による』ってことなら柊君の他にもいるの?」
「いるんですけど暗黙の了解で目立たないようにしてるんです。バレたら研究されまくるんじゃないですか?多分」
…そういうものなのかな?
柊君はおもむろに立ち上がって黒板を使って説明する。なんだか授業みたい。
「ふわっとした説明しかできない妖力を使って何をするのかと言われると、僕の場合基本的には『悪い妖怪の退治』と『妖怪たちの様子をチェックする』ってことをしてます。昔から神様とか妖怪だとかの伝承がありますけど、あれは本当に居る存在で、ほとんどの人には見えていないんです。」
話ながら黒板に人と小さな妖怪のイラストを描いていく…けど…ちょっと下手。
「昔はある程度バランスが取れていたけど、時代と共に妖怪とかを見える人とか見る必要性とかが減ったとかなんとかで、妖怪達は自分を抑える奴らが減ったわけだからのびのびと悪いことをするようになっちゃって」
多分一つ目小僧と唐傘お化けと、あと何かわからないけど多分妖怪のイラストが加わる。
「放置してたら悪い妖怪だらけの世界になってしまって人にも影響が出る。そこで僕らみたいなのが出てきて退治するんです、─そうして良い感じに調節する」
増えた妖怪のイラストを黒板消しで消して数を減らし、人の方に黄色のチョークでキラキラを描き加えて完成。バランスを取るために退治する…なんか物騒。
「この学校に僕が入学したのは、この地域で妖怪の様子が不穏だからその調査をするためってわけなんです」
「そうなんだ」
「こっちに住んでからしばらく経つんですけど、最近ようやく1つ見つけたから下準備として色々やってたら、そこに南さんがやってきたってところです」
ターゲットが見つかったから準備をしていたらちょうど私がそこを見かけてしまった、ということはもしかしたらなにか邪魔しちゃったのかな。
「邪魔しちゃった?」
「いや!そこは大丈夫なんで気にしないでください!さっきやってたのは調べに行く準備だったんで問題なしです」
両手を振って必死に邪魔じゃなかったことを伝えてくるから、なんだか可笑しくなってくる。柊君と一緒に教室中の柊君が出したもの、式紙も同じように動くから迫力が凄い。
「…なにか私にできる事ある?手伝おっか?」
「それは…ちょっと待ってくださいねぇ?」
式紙のみんなと一緒に円陣を組んでなにかひそひそ話し始めた柊君。置いてけぼりにされたから暇つぶしに机の上を滑る雪だるまと遊んでいると、
「おねがいしてもいいですか?」
凄く腰の低い感じで、式紙のみんなも一緒にとても申し訳なさそうにしているから、堪えきれずに吹き出しちゃった。
「ごめんね?今の面白かったからさ?…ふふっ。
でも、私なんにも知らないからできる事少ないと思うよ?」
「そこは全然大丈夫!やってもらうとしても簡単なサポートくらいなんで、少し体力あれば十分です!」
よかった、体力なら昔からかなりある方だから何もできなくて変な空気になることはなさそう。
「見た目通り体力はあるから任せて!中学の時からバレーやってるから走ったり飛んだりで体力はあるよ!」
「ならおねがいします」
立ち上がった私を見上げて、素直な感想として私を褒めてくれる柊君。他の人だったら私見たとき最初に背の高さに驚くから、柊君みたいに気にしないのは珍しい。
「それじゃあ、早速で申し訳ないですけどこの後って予定あります?都合悪けりゃ僕だけでやるんで時間作らなくてもいいですよ」
「んー、…友達は先帰っちゃったし大丈夫だよ」
「マジすか!超助かるー」
仮入部の時間が伸びてゆいちゃんとかなちゃんが先に帰ってるのは確認済みだし、別にこの後予定があるわけでもないから、せっかくだし柊君がどんなことするのか見てみようかな。
「そんじゃ、僕だけだと上手くできないことがあるんで、それ手伝ってもらえます?」
「なにするの?」
「えぇっと…」
教室中を飛び回る式紙をどかしながら自分のバッグをガサガサ探す柊君。席に座るよう言われたから机に雪だるまを降ろして席に座って待つ。
「─これです」
「地図?なんか書いてる」
「この地図の通りに進んで、ここの公園まで歩くんです。ただ、僕だけだとその後にやることがちょっと手間がかかるんで困ってたんです」
「やること?」
「簡単に言えば儀式ですかね?」
儀式!なんかそれっぽい!
「じゃあ、私は地図の道順をそのまま進めばいいってこと?柊君はどうするの?」
「人手が増えたんで、僕は先に公園で準備して待つことになりますね。こういうのは手順が大事で、1人じゃその通りにできるか割とギリギリだったんです」
「なるほど?…てことは私1人で公園まで行かなきゃいけないの?大丈夫?私妖怪なんて見たことないからわかんないけど、怖かったりする?」
よく考えてみたらどんな妖怪が出るのかも知らないし怖いかどうかもわからない、いくら詳しい人がいたとしても私だけで何かするのは怖すぎる…!
「そこら辺も含めて説明しますんで、聞いたうえでやるかどうかを決めてもらえれば」
─なんか含みがあるようなそうでもないような雰囲気。
「今回相手するのは『鎌鼬』って妖怪です。有名寄りなやつなんで物によってどういう妖怪なのか内容が変わってて、『三匹のイタチがそれぞれ転ばせる、切り付ける、傷薬を塗る』だったり『腕が鎌になってるイタチ』だったり色々派生があるんですけど、今回の情報だと『子どもの姿で両腕が鎌になってる』んだそうです」
「……だいぶ怖くない?」
「怪我したり痛い目にあったー、みたいな話は割とマイナー寄りだから大丈夫じゃないっすかね…多分」
微妙に安心できないことを話す柊君。私の不安を察したのか雪だるまはすっかり私サイドに立って柊君に抗議のジャンプをしてる。
「で、作戦としては『指定された地図のルートで鎌鼬を誘導して、公園で待ち構えて退治する』って流れです」
「…ちなみにここまで聞いちゃってなんだけど、柊君1人で頑張ってもらうってことは─、」
私が最後まで言う前に柊君が被せるように表情で遮る。
「どういう表情?」
「いやー、僕も“できれば”一般の人は巻き込まないようにしたかったんですよね?でも、南さんの方から聞かれちゃったんで僕もつい、うっかり話しちゃってぇ。妖怪のこととか色々と知られたら結構まずいこと“聞かれちゃった”んですよねぇ!」
「……。ん?」
「うん、これは仕方がない、大変心苦しいけれども南さんには手伝ってもらうしかないなぁ!!機密情報を知られた上で何も知らないフリして生活送るのも無茶ですもんねぇ?!」
「──!!!」
一気にまくし立てるから反応が遅れるけど、手伝うしかなくなってる?てか嵌められた?私よりも反応が早かった雪だるまは大げさに身振り手振りをする柊君に向かってかなり高いジャンプを繰り返している。多分私の代わりに怒ってくれているのかもしれない。
当の柊君に片手で払いのけられていなければ心強い仲間だったのに…!
「と言うわけで、手伝ってもらえませんか?せっかくですし」
興味本位で私が聞いてしまったこともあるけど、結構無理やり秘密を聞かされた上で選択肢がなくなってしまった私は、自分の軽薄さを恨めしく思いながらもひきつった笑顔を浮かべるしかできなかった。




