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3話 私の知らない妖怪の世界

 少しだけ目線を下げて目が合ったその人は、ドアの向こうから聞こえていた低くてぶっきらぼうな感じの声からイメージしたよりは怖くなさそうな人だった。陽キャって感じじゃなくなんか真面目そうな、普通な男の子。


 「…ここ使う感じです?」

 「えっ!?いや!使わないから全然大丈夫!!キニシナイデ!」


 私が体感数秒固まってると男の子の方から声を掛けられて慌てて返事をしたから更にぎこちない微妙な空気になってしまう。


 「ちょっと通りますぅ、すんませーん」と教室の出口を塞ぐように立っていた私をずらして廊下に身を乗り出して左右を見渡す男の子。口元に手を持っていって考え事をした様子で見渡してそのまま廊下に出ていく。


 男の子の後ろにはあの雪だるまがふよふよと浮かんだままで、男の子と一緒に廊下に出ようとした時、ドア付近に立つ私を見つけて私に向かってゆらゆらと飛んでくる。両手をお椀のようにして雪だるまの居場所を作ってあげるとそこに鎮座。そのままくるくると回ったり私を見上げててかわいい。


 廊下に出て私に背を向けたままの男の子は私たち以外人の居ない廊下に仁王立ちになって首を傾げたまま固まって、なにやら唸っている。


 「消える?消えたとしてもなんかしら残るよな。となるとーーー、やっぱエラーかぁ?俺が作ったやつにそういうの無いと思うんだけどなぁ。……わからん」


 なにか良くわからないことを呟きながら振り返り、私がまだ立っていることを忘れていたのか、独り言を聞かれたことが恥ずかしかったのか少し勢いよく目を逸らそうとした直前。私の手のひらの上に雪だるまが鎮座していることに気付いて更に勢いをつけて私の顔を見上げて驚いたような、信じられないものを見たような表情で固まる。


 すると雪だるまが私の手のひらから男の子の目の前まで飛んでいき、目の前で手を振って意識を確認するように上下左右にダイナミックに動く。その動きに合わせて向かい合った状態でお互いに雪だるまの行方を視線で追う私たち。しっかり自分がいることを証明するように飛び回った後、私の周りを円を描くように飛んで頭の上に乗っかる。手のひらに乗せてかなり冷たいのが頭の上に乗るわけだから結構冷たい。なんなら体全体が冷えそうになる。


 「…………マジかよ」


 さっきまで固まってた男の子はようやく目の前のことに理解が追いついたのか驚きつつ、なんだか複雑そうな顔で零した。


 「あの、」

 「ちょっっっと中入ってもらえます?色々聞きたいことあるんで」

 「え?あ…はい」


 流石にこの状況を「そういうこともあるよねぇ」で片付けられるわけないから、どういうことなのか教えてもらおうとしたら向こうも私に聞きたいことがあるみたいで、できるだけ落ち着こうとしてるけど明らかに動揺してる雰囲気で、とにかく私を逃がさないように取り調べみたいなことを言ってきた。


 促されて空き教室に入ると、特に目立った物はなくてただ男の子のだと思うリュックがあるくらい。教室の後ろにまとめられた机と椅子をいくつか引き出して、私と男の子が対面、男の子の横に雪だるま用の机の配置でセッティングされたから雪だるまを頭の上から専用の机に移す、けど雪だるまは私の机の上に陣取る。


男の子は一言も喋ってない雪だるまの話していることがわかるのか、何回か会話のラリー(私視点だと独り言だけど)の末に、折れたみたいで机はそのままに私と雪だるま対男の子の三者面談スタイルで話が始まった。


 「どっから話せばいいんだろ、どっからなら理解ができるんだ?」


 話し始めようにもどこから話せばいいのかわからないから微妙な緊張感が走る。


 「えーーっと、単刀直入にいきます。“これ”見えてますよね?」


 準備ができた男の子が、机の上でフィギュアスケートをしている雪だるまを指さして確認を取る。


 「見えてます、ね」

 「そですよねぇ、見えてるし触ってるし。冷たさとかもわかります?」


 更に確認を取る質問に全部肯定。その後もいくつか雪だるまに関して確認の質問があったけど答える度にどんどん男の子の微妙な表情が濃くなっていく。途中から男の子がポケットから取り出して机の上に置いたものがなにか答える質問になったけど、なにかのテレビで観た動物実験みたい。


不思議なのはどう考えても普通は制服のポケットには入らなさそうなもの─スズメに傘に水の入ったコップとかポケットのサイズを完全に無視したものがポケットの中からポンポン出てきて、スズメに関しては剥製じゃないみたいで雪だるまと一緒に机の上をぴょんぴょん飛び跳ねてる。


 「ここまで見えてんのになんもないのは置いとくか…?置いてていいんかな?

…まぁともかく、前提として今見えてる雪だるまとかは別になんか悪い奴だとか怖いやつじゃないんで安心してください」

 「え、うん、わかりまし、た?」


 「『以前から見えてたかは不明、身近に同じような人はいないはず、身の回りで変なことは起きてない、いたって健康、適性は未知』それでいて雪だるままで見える…マジでなんもわからーん」


 質問を振り返って更に沼にはまったみたいで頭を掻いて唸る男の子。なにも悪いことはしていないはずなのになんだか申し訳ない感じになる…。


 「よし、じゃあ本題入りますか」


 「妖怪って居ると思いますか?正確には妖怪とかお化けとかそういうもの全部ひっくるめたもんですけど」

 「─へ?ようかい?」



 ようかい…妖、怪?



 正面の椅子に座りなおして姿勢を正し、少し前のめりになって真剣な顔で告げられる。


 「え…?まぁ、よくテレビでやってるしゲームとかでもよく見るから、信じてない派じゃないけど…妖怪?」


 小さい頃からテレビの番組とか漫画とかで妖怪について取り上げられたのを見たことがあるから、一応「へー、こんなのいるんだぁ」くらいには知ってるけど実際に見たことはもちろんない。でも目の前の男の子は真面目なトーンで妖怪の話をしてて、しかもよくわからない雪だるまとかどっから出したのかわからないスズメを見せている。─ということは?そういうこと?なのかな。


 「そう、妖怪。大体の人は知ってはいるけど実際に目で見たことはない、実質架空のアレです。よく『鎌鼬は乾燥した北風が皮膚を乾かすからできるもの』とか『口裂け女は口紅を引くのが下手な人の顔を見た人が裂けたように誤認したのが噂で広まった』とか言われてますけど、実際にいるんです。奴ら。

でも基本的に姿は現さないでここぞという時だけ姿を見せつけて存在をアピールしてる…んですって。」


 男の子は目の前で雪だるまとスズメを相手に指で突いてみたり手のひらに乗せたりして遊びながら妖怪に関する説明を始める。


 「今出してるこいつらは僕の力…妖力?とかそんなんを使って形を与えてるんです。ただの紙に描いた絵でも、動く様子をイメージしながら妖力を注ぐとちゃんと動く生き物が出せるってわけです。

続けて説明しとくと、妖力ってのはなんか…こう、魔力的な?ゲームで例えたらMPとかそんな感じの『なんか便利だけどよくわかんない力』、なんですかねぇ。どんなものにもそういう力はあるらしいんですけどそれを上手く使えるのは少ないらしくて。まぁ使えなくても特に問題はないですしむしろ使えない方がメリットありますね。正直なところ」


 そういいながら机の上に色んなイラストを描いた紙を広げる。見るとカラフルなボールだったり風船だったり、棒人間だったりが描かれている。「見ててください」、言われたとおりに見守っていると、棒人間が描かれた紙に人差し指が置かれる。指が置かれると男の子が力を入れてる様子はないのに勝手に紙が震えて、紙の中からゆっくりと棒人間の腕が紙から出てきて手をついて、そこからじわじわと体全体を紙の外に出して紙の上に“立った”。


 立体になった棒人間は辺りを見渡して、私の視線に気が付くと頭に被っていた帽子を外してお辞儀をする。つられて私も会釈をするとそのまま雪だるまとスズメの方にスキップで近づいていった。


 「こんな感じでほんとにちょっとしたこととかができるんです。しっかり見せるためにゆっくり呼び出しましたけど、ほんとはかる~く、サッとできるんですけどね」


 言いながら残りの紙を何枚かまとめて端を親指と人差し指で挟み、上に向かって言葉通り軽く放ると放った紙からボールが、紙飛行機が、空飛ぶ小さな蛇?龍?などなど描かれていた絵が空中に現れた。…変な夢でも見てるみたい。


 「─で…えー、まぁこんな感じなんですけど信じてもらえました?」

 「ん~。はい、なんとなく?」


 見たところでなにもわからないけどマジックじゃないっぽいし、妖怪そのものは見てないけど妖力?を使う人が説明してくれてるし、色々わからないことだらけだけど別に変なことをされているわけじゃないからなんとなく信じてみる。


 おばあちゃんが口にしていた「まずは相手を信じるところから、どんな相手でも初めから悪い人はいないんだよ」って言葉はなんとなく私の心の中にずっと残っている。だからこんな変な状況もまずは信じてみよう。


 「ほんとは知られちゃマズいんですけどね、秘密が云々、一般人の安全がなんとか…」

 「えっ!?」

 「僕はやめた方がいいんじゃないかって思ったんですよ?でもコイツが」


 さっき出した色んなものと一緒に遊んでいたところを身代わりにされた雪だるまが、あまり変わっていないけど何か訴えているような表情で男の子の方を向いてピタッと止まる。


 「…なんだよ、事実だろ」

 「────!!」


 ぴょんぴょんと跳ねて抗議していたけど男の子は知らんぷりをしている。ひとしきり抗議を終えた雪だるまは、次に私に近づいてさっきより低く飛び跳ねる。もしかしたらと思って手を差し出すと合っていたみたいで、私の手のひらの上に乗って私を見つめている。心配してくれてるのかな?

 結局なにもわからないし現実感もないけど、面白そうなことがあるのだからもっと見てみたい。


 「変なことになるのは嫌ですけど、この子みたいなかわいいのがいるんだったらいいんじゃないですか?」

 「───♪」

 「そういうもん、ですかね…?そういうもんかな?」


 私を見上げて、手のひらに乗った雪だるまと交互に見やって、男の子はなにかぶつぶつ呟いてたけどなんか納得したみたい。


 「それじゃ、今見たものは全部口外しないってことでお願いします。あんまり人に知られるようなものじゃないですし、色々困りますし」

 「りょーかいです!」


 私が出した右手を一瞬固まってから握り返す男の子、そういえば名前知らないや。


 「みなみ あまねです!」

 「ひいらぎ 優斗ゆうとです、柊でもなんでも好きに呼んでもらえれば」

 「じゃあ柊君で!」


 ─入学してまだ一ヶ月も経っていない、これからの高校生活に期待を膨らませていたその日、私は季節外れの雪だるまとその他色んなもので溢れかえった空き教室で、そんな不思議なものと一緒にいる不思議な男の子と知り合った。

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