2話 不思議な不思議な小さな雪だるま
「ね、部活どこにする」
放課後。昨日から仮入部が解禁された新入生の私たちはどの部活に入部するか話してた。
私はこの身長のせいで入学式の後すぐにバレー部とバスケ部の先輩から目を付けられてる。確かに中学生の時はバレーボールをやってたけどせっかくJKになったんだから運動部よりも文化部でゆる~く高校生活を過ごしたいのが本音…。
「私は読書研究会見てみようかな、合わなかったら帰宅部」
「私は…どうしよ?キツくなかったらまたバレーでもいいけど、文化系入ってみたいんだよね、家庭科部とか漫研とか」
「家庭科部ってそれただ食べたいだけじゃん!」
「ゆるーくやりながらおかし作るだけなんて最高じゃない⁉…ほんとに家庭科部入ろっかな?」
そんな風に話してたらもう仮入部開始の時間。かなちゃんは読書研究部に、ゆいちゃんは中学校と同じバドミントン部に、…私はとりあえず今日は経験のあるバレー部を体験。
─他にも仮入部の子はいたけどやっぱり私は背が高いから全員から注目を浴び、なんなら先輩たちに混じっても違和感ないせいで仮入部なのにミニゲームにちゃんと参加するはめになって。
久々にバレーをしたから楽しかったけどそこまで本格的にやる気じゃなかったから仮入部終わりの時間には足に結構疲れが溜まってた。
仮入部が終わって制服に着替える。ゆいちゃんが仮入部の前に「終わる時間一緒だったらみんなで学校の近くにあったクレープ屋行こ!!」って言ってたけどバレー部が、というより私が指名を受けて先輩たちと一緒にミニゲームをしてたから2人よりきっと遅くなっちゃった。多分先に帰ってるかも。
更衣室から教室までの渡り廊下を歩きながら制服のポケットからスマホを取り出すと通知欄に大量のメッセージ。
『こっち終わった!!
ふたりは?』
『わたしも今終わった』
『あまねはまだ?
あたし今教室いるけどかなどこ?』
『そっち向かうから動かないで』
『あまねまだ掛かりそう?』
─グループ通話が開始されました。
─グループ通話が終了しました。
『先帰っちゃうよーーーーーーーーー!!!
!!!れ!!!』
やっぱり2人ともちゃんと時間通りに終わってたみたいで、20分前には先に帰るメッセージが届いていた。
「今終わったとこ、これから向かうけどまだお店にいる?」と簡単にメッセージを送ろうとした時、
「──つめたっ!!」
スマホを入れてない左ポケットの中が急に氷みたいに冷たくなってスマホを落としてしまった。スマホを拾って液晶が割れてないことを確認した後、急に冷たく感じたからなにか怪我でもしたのかと不安になりつつ冷たくなったポケットの中を慎重にまさぐる。
「ん……なんだろ、これ…。…あっ!」
ポケットの中の冷たさの正体に指が触れておっかなびっくりゆっくり軽く掴んで取り出して手のひらに乗せてみると、そこにはしばらく前に見かけてそれっきりすっかり忘れてたあの雪だるまがいた。それも“立体”の。
ポケットに入れたときはただの紙に描かれた絵のはずなのに、今私の手のひらに乗ってるのは確かに立体的だし、しばらく乗せてると悴んでくるくらいにはしっかり冷たさもある。
季節は春だし、冬にも雪なんて滅多に積もらない地域なのになんでかポケットの中には雪だるまが入っていて、しかも不思議なことに手のひらに乗せてても私の体温で溶ける気配がない。どう考えても普通じゃないし若干ホラーなはずだけど、この雪だるまが襲って来たりみたいな雰囲気はないし、指でつついても反応がないから怖さより不思議が勝って変な感じ。
「ちょっっと待ってね冷たいねぇ君」
流石にずっと手のひらに直に雪だるまは冷たさで痛くなってきたからスカートのポケットから出したハンカチを雪だるまの下に敷く。これである程度冷たさがなくなったからそのまま正面から、横から、摘まみ上げて上下から眺めてみる。
昼に見たときは遠くて小さく見えてたけど、手のひらに乗せてみると大体8センチくらいの大きさで目と木の枝でできた腕が付けられている。青いペットボトルのキャップでできた帽子も被ってる。あとは雪だるまの表面に、氷とかひんやりしてるものにある白い膜?層?みたいな煙が覆っている。
そうして少し眺めていると、さっきまでピクリともしなかった雪だるまは不意に私の顔を見上げて、数秒目を合わせた後小さく跳ねながらくるりと私に背を向けて、
─私の手のひらからぴょんっと廊下に飛び降りてそのまんま教室棟の方に廊下を滑って行った。少し滑ったと思ったら立ち止まって振り返り私を見つめてくる。
ついてきて、ってことなのかな?
最初から普通じゃないけど、まさか動くとは思ってなかったから更にびっくりはするけどわからないことが急にいくつもやってきたから驚きのリアクションも取れないし、私自身変に冷静になってて、廊下を滑る小さな雪だるまを歩いて追いかける。
私が近づくと雪だるまは前を滑って、しばらく進んだら振り返ってちゃんと私がついてきているか確認で立ち止まるから、小さな雪だるまに引き離されないように追いかける。
周りから見たら「明らかにおかしい雪だるまを追いかけてる変な女子生徒」だからできるだけ周りに人がいないことを祈りながら雪だるまの後ろを追いかけているけど、時間的に先輩たちは部活で、1年生は仮入部を終わらせてほとんど帰ってるからか誰にも見られることなくこの不思議な追いかけっこが続いた。
あの雪だるまなりのルートがあるのかわからないけど、
教室棟に移動して、
3階まで階段を上って突き当りまで進んでから今度は1階まで降りて、
購買を横切って校長室も横切って、
次に2階に上がってウロウロして…
同じ階を行ったり来たり、階段を上がったり下ったり。仮入部で疲れた足が更に疲れて正直ちょっと大変。
途中、雪だるまも疲れたみたいで水道の前で立ち止まってふわふわ浮き上がって蛇口の下で私をじっと見つめてきた。なんとなく察して蛇口を捻って水を出してあげると、意志が伝わってたみたいで、私が出した水を雪で出来た体に染み込ませてサイズが一回り大きくなった。
水…で動くんだ……。
水を飲ませて(?)あげたことで仲良くなれたのか、それからは数メートル先じゃなくって私の体の周りをふわふわ浮きながら道案内をしてくれた。
─結局目的地はそんなに遠くなくって、複雑な道順じゃなくてもすぐにたどり着く教室棟2階の空き教室だった。
数学の他にもいくつかの授業でクラス分けをするからこの学校には空き教室が結構あって、目的地の空き教室もその1つ。隣も空き教室であんまり人気が無いからなんだか不気味な感じがする。
私がドアを開けようとすると、雪だるまは私の目の前に勢いよく飛んできて体を左右に振る。
多分「入っちゃだめ」、なのかな?
ドアはちょうど雪だるまが入れるくらいの隙間が空いていて、身を潜めて隙間から覗くとよく見えないけど誰か人がいるのが見えて、耳を澄ますとなにか話している声が聞こえた。
「──でもどうするよ、俺だって相手できるかわかんねぇよ?普通のなら別に問題ねぇけどさ?今回相手の情報無さすぎじゃんか。…やんなきゃいかんってのはわかるけどよ?別に俺がやんなくとも誰かがやんじゃねぇの?」
「─てかアレどこやったかな、あいつにゃあ一応勝手に動けるようにしてたから戻ってこれるだろうけど、誰かが拾ってたり捨てたりしてたらまずいよなぁ」
中からは男の子の声が1つだけ聞こえるけど電話中なのかな?…なんかすっごいぶっきらぼうな感じでちょっと怖いかも。
そんな私をよそに雪だるまは隙間からするりと教室の中に入っていく。
「…ん?おぉ雪だるま!!お前どこいってたんだよ、割としっかりめに作ったんだから勝手にどっかいかれると困っちまうんだからな?まぁ戻ってきたんだからいいんだけどさ。そんでどこ行ってたよ、なんかめぼしいのあったか?……見つけたぁ⁉んなわけないだろ、だってお前見えるって相当だよな?初っ端本命見つかるか?普通。んで、それを監視ないし調査してたってことか。
違う?連れてきたぁ?…攻撃されたわけじゃ、ねぇな。なんだ?エラーでも吐いたか?─っあぁ冷てぇ、何しやがる!!」
なんか騒がしいけど無事雪だるまが持ち主?飼い主?のとこに帰れたみたいでよかった、のかな?…なんか雪だるまが何かしてる雰囲気だけど。
それはそれとしてなんだか手持無沙汰な感じになっちゃったし、もう帰っちゃおうかな?
「連れてきたって言われても、どこにいんだよ。気のせいだろ?」
雪だるまが先に入って行った時についていけばよかったかもだけどもう遅そうだし、今から入ってもなんか変な空気にしちゃいそうだし。
「俺が作ったわけだから変に細工されてれてないってのはわかるけどよ、そう簡単に見つかったら、なんかこう…まずいだろ、色々と」
あんまりよく聞こえないけどなにか話してるみたいだし、なおさら入りにくいから帰っちゃおう!そうしよう!中にいる人が怖い人だったら嫌だし。変な人でも嫌だし。
「ぁん?外?……外にその相手が?」
教室のドアの前で顛末を見守ってたけど、もう十分かな。そう判断して床に置いてた体操着の入ったバッグを持ち上げようと身を屈めたとき。
─ガラガラ。
スライド式のドアが音を立てて開き─、中にいた雪だるまの持ち主と目が合った。




