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 ヨーナス君と控え室へ向かいながら話を聞いていますが、とても素直で純朴な子です。学園の景色におめめがきらきらしてますよ。

 正直に言います。

 この子好み(真顔)

 愛でたいという方向ですけどね。

 あのゲームにはこういうワンコキャラが攻略対象にいなかったんですよ。ツンツンのデレもいいですけど、どちらかというと、普段はかわいい子がいざというときに頑張る姿の方が好きですね。おいおばちゃん目線とか言ったやつ表へ出ろ。


「ところで、ヨーナス君は推薦入学ですか?」

「そ、そうです。村長が領主様へお話下さったみたいで、でもいいんでしょうか、僕なんかただの農民ですし……」

「心配しなくても大丈夫ですよ。推薦なら基本的な読み書きさえ出来れば、あとは本人の努力姿勢が重視されます。授業をサボったりしなければ問題ありません。身分も対外的なこと以外では気にすることもそうありませんよ」

 そうなんです。

 今回の歓迎関係では私の身分が色々と出てきましたが、本来はここまで意識することはありません。

 学園が本格的に社交界デビューする前の貴族の子弟たちの主な人脈形成の場となっていることを踏まえると、全てを取り払うのは名目、実質ともに無理ですが、学校としての体裁は身分に拘わらず、ですから。

 実際、なんとか在野の才能を発掘しようと国をあげての推薦入学なんて制度が存在していますからね。ようは一芸入学というやつです。

 今この学園に在席する平民生徒のうち、半数近くがこの制度を利用しての入学です。有望な生徒を入学させた家、村には多少の支度金が出ますから、積極的に利用されています。残りは大きな商家など、入試で合格できるだけの教育を施せる余裕がある家の子です。

「そ、そうなんですか」

「ええ。ただ、推薦入学の場合は推薦された学科での一定以上の成績を残すことが必要です。ヨーナス君は治療魔法での実績ですね。まあ、あまり難しく考えなくても大丈夫ですよ」

 君を学園が、ひいては国が手放すわけありませんから。とは口には出しませんけど。

 ヨーナス君はわかったようなわからないような、曖昧な顔をしています。


 ヨーナス君の持つ危うさについて考えてみます。

 彼はなぜあんなにも簡単に治療魔法が使えたのでしょう。

 この世界、想像力と魔力次第でなんでもできるとはいえ、やはり限界があります。

 極端な話、切断された腕を元通りにくっつけたり、ましてや生やしたりなんて、想像できるでしょうか。いくら元気になった姿を思い浮かべても、肝心の"なぜ"腕が元に戻るのかが理解しきれるのか?ということです。

 医学レベルが劣るこの世界では理屈が足りず、私も多少の現代医学の知識があるが故に明確に想像することが難しく、というジレンマを抱えているのがこの治療魔法というものだったのです。

 ちなみに病気の回復については治癒魔法と呼ばれ、怪我の治療魔法よりももっと難しいとされています。

 現代医学でも完全な風邪薬が発明されたらノーベル賞ものだと言われるだけあって、病気の原因は千差万別、同じ症状でも同じ病気だとは限らない。治癒するはずが悪化させてしまうことだってありますからね。白血球による免疫を活性化させるだけでいいならこの世にガンなんて存在しないのに。


 そんな中で、ヨーナス君のあの治療魔法への適性の高さは驚異的です。

 魔法を使うのに必要な魔力を決めるためには理屈がまずありきで、次に理屈が足りていない部分を魔力の量で補い、最終的に適性=質で倍率を求め増減するというわけです。

 とはいえ適性なんてものはそうそう個人差が出るようなものではありません。1.1倍や、0.9倍でもかなりはっきりした違いです。

 それを彼は、通常の半分以下の魔力でやってのけました。それも自分では見ることのできない額を。

 理屈を知っているわけないのですから、一体どれ程の適性だというのか。

 こんな逸材、国が手放すなんてあり得ませんよ。


 もし、万が一。国王陛下や王族の方々、重臣たちが重傷を負ったとしても、彼ほどの治療魔法の使い手がいれば即死でない限り危険性はかなり下がるはずです。

 さらにこの適性の高さがどこから表れたのか、他の人と違うところはないか、あればどこかを調べられるでしょう。流石に非人道的な実験はしないでしょうし、あったとしてもできる限り止めますが。

 むしろ、国内の貴族、他国による誘拐を警戒した方がいいぐらいです。

 残念なことに自分さえよければそれでいいと考える愚か者はいなくなりませんし、他国だって彼ほどの使い手は欲しいですからね。

 そのためにはマルクライン・ディル()・コングレンスが在学中の盾になることが一番なのでしょう。

 いずれシクスタス殿を通じて殿下にも面通しさせないとなりませんね。今から考えておきましょう。


 隣の領ということで天候や村での暮らしなどを聞きたいと言えばヨーナス君も納得して口をよく開いてくれました。自分が喋ることで私に対して少しでも緊張感を無くしてもらえれば今は上出来です。

「さあ、ここですよ」

「あの、ありがとうございます!」

「いえいえ。何かあれば遠慮なく声を掛けて下さいね。これからの君の学生生活が良きものになるよう、ささやかながらお手伝いさせてください」

「ぼ、僕なんかにこんなによくしてくださって、本当にありがとうございました!」

 新入生の控え室まで付き添い、扉を開けて姿を見せます。

 伊達にずっと受付にいたわけではありません。貴族生徒ではなくても、受付にいたなんか凄そうな先輩というのはどの生徒もわかるはずです。

 そこでこんなことを言えば、彼が私の特別な存在であると知らしめることに繋がります。あ、腐った神様は結構です。お引き取りください。

 もちろん始めは残念な輩を引き寄せてしまいますが、彼の真価を知り、私の卒業後、彼の庇護者となる同輩も現れるでしょう。

 なぜこんなことをしたのか理解できる、将来有望な生徒を期待しましょう。

 必死に頭を下げているヨーナス君を宥めてイスに向かわせ、最後に少しフォローしてから戻りますか。


「皆さん、改めてご入学おめでとうございます。本年は隣国からの交換留学生たちも同時入学と、例年とは違う年になるでしょう。たくさんの出合いの中で、気の合う友人、大切な恋人といった、素晴らしい関係を築いてください。中には気に食わない人もいるでしょう。しかし、自分や大切な人に恥じない行動を心がけてください。あなた方は皆、同じ学園の生徒なのですから」

 そこで一度言葉を区切り辺りを見回します。一見、ただの田舎者でしかなさそうなヨーナス君への私の態度などに向けられていた良くない視線が逸らされ、軽い嫉妬であるとか、ごく普通の感性を持つ生徒からの反感はほぼ消えていました。当てはまらない生徒は要チェックですね。

「それではまた係りの者が呼びに来るまで、今少し待っていてください」

 最後ににこりと笑い掛けてから退室しました。


 扉を閉めて後にした控え室からは、緊張感のほどけた雑音が聞こえますが、吊し上げと言ったような悪い気配は感じられません。

 彼の周囲に張り巡らされた国の比護という名の檻を幻視します。自由な将来。地球、日本ではごく当たり前だったそれは、この世界では一部にしか許されない特権です。

 自分がその一部であること、そして檻でもあることになんとも言えない皮肉を感じ、つい笑ってしまいます。

 それでも足は止まらず、次の仕事へ向かいました。

遅くなってすみませんでした…(_ _;)

亀更新は変わらずなので申し訳ありませんが、エタらせはしません。

あと説明文ばっかりで読みづらいことこの上ない…すみません。

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