第8話「鎌をかけたら、鎌で返された」
作戦決行の日。王宮の薔薇園。
ジルベールが剪定鋏を片手に白薔薇の手入れをしている。予定どおり、私はミリアを「散歩」に誘ってこの庭へ連れてきた。
「わあ、きれいな薔薇……!」
ミリアが目を輝かせる。よし。設定どおり花が好きだ。
「殿下。ミリア様が薔薇に興味がおありだそうですわ」
私が水を向けると、ジルベールの目がぴかっと光った。
——早口スイッチ、オン。
「ほう! この白薔薇はね、朝と夕で香りが——」
あとは勝手に進む。薔薇の品種、土の配合、剪定の角度。ミリアは「すごい」「素敵」と相槌を打ち、ジルベールは水を得た魚だ。
二人を残して、私はそっと後ろへ下がる。隣にはいつのまにかロロがいた。
「順調ですね」と小声でロロ。
「ええ。あとは見守るだけ」
しばらく二人で並んで、若い王子と令嬢を眺めていた。
ふとロロが言った。
「お嬢様って、ほんと自分が幸せになる気ないですよね」
——む。
「だって婚約者を、自分から他の子にあげてるんですよ。普通しませんって」
鎌だ。これは鎌。
「私の出方を、また探ってるの?」
「さあ。世間話ですよ」
ふぅん。なら、こっちも返そう。
「ロロ。あなたこそ、なんでそんなに協力的なの? いち侍女がここまでする?」
「……それを言うなら、お嬢様こそ。そこらの令嬢が、なんで『攻略』とか『フラグ』とか知ってるんです?」
「それを言うなら、あなたこそ」
「いえ、お嬢様こそ」
ぴたり。
二人して口をつぐむ。
——また、これだ。
お互い、相手に先に言わせようとして自分は絶対に言わない。「あなた、転生者でしょ」のひと言を、どっちも意地でも口にしない。
鎌をかけたら鎌で返される。終わらない化かし合いだ。
「……ねえ、ロロ」
「はい?」
「私たち、いつまでこれ続けるのかしらね」
「さあ。どっちかが観念するまでじゃないですか」
「あなたが先に観念しなさいよ」
「お嬢様こそ」
はー、と二人でため息。
薔薇園の向こうでは、ジルベールがミリアに30個目くらいの品種名を語っている。ミリアはもう半分ついていけていないけど、楽しそうだ。
うまくいってる。作戦も私とロロのこの奇妙な関係も。
意地の張り合いは、なぜだか心地よかった。
次話:「正しい物語を守りたい人、登場」




