第7話「それ、合言葉になってない?」
破滅を回避するには、ジルベールとミリアをくっつけるのが一番早い。
王子がヒロインと結ばれれば、私は婚約者候補から外れ、断罪のシナリオごと消える。円満に平和にフェードアウト。
問題はどうやってあの二人を近づけるか、だ。
「というわけで、ロロ。作戦会議よ」
自室で、私は侍女に向き直った。
言っておくが私はまだ、この子に「私は転生者です」なんて、一言も認めていない。ロロも同じだ。お互い、口にはしない。
——でも半分バレてるのは、もう、わかりきっている。だったら、知ってる前提で動いたほうが早い。それが私たちの奇妙なルールになりつつあった。
「殿下は園芸オタク。ミリア様は……たしか、花が好きという設定だったはず」
「お、よく覚えてますね。攻略サイトの隅っこ情報じゃないですか、それ」
「うっ……あなたこそ、なんで知ってるのよ」
「無課金勢を、なめないでください」
——でた。無課金勢。
私が廃課金で全ルート回収した廃人なら、この子は攻略サイトを隅々まで読み込んだ無課金の猛者。知識の偏りが見事に噛み合う。
「じゃあ、こうしましょ。殿下が薔薇の世話をする時間に、ミリア様を庭へ。自然に会わせるの」
「いいですね。あとは、殿下の『早口スイッチ』が入れば、勝手に距離が縮まる」
「早口スイッチ」
「園芸の話になると、止まらなくなるやつです」
ぶふっ、と噴き出した。早口スイッチ。言い得て妙だ。
それから私たちは、あれこれ作戦を練った。
「ミリア様の動線は、こっちで」「殿下の予定は『次の更新』で確認して」「了解。『リセマラ』ありで」
ぽんぽん、言葉が飛び交う。
ふと気づいた。
「……ねえ、ロロ」
「はい?」
「私たち、さっきから、前世の言葉で会話してない?」
更新。リセマラ。早口スイッチ。気づけば、二人だけに通じる言葉でぺらぺら喋っている。
「それ、もう合言葉になってない?」
ロロがぱちくりと瞬きした。それから、にやりと笑う。
「なってますね。完全に」
「……他の人の前では、絶対やめましょう」
「ですね。さっきの『アップデート』みたいになる」
うっ。掘り返さないでほしい。
でも——なんだろう、この感じ。
一人で抱えてきた前世の言葉を、こんなふうに、笑いながら交わせる日が来るなんて。思ってもみなかった。
「ロロ。作戦、成功させましょうね」
「もちろん。退屈な結末は、嫌いですから」
二人で、こっそり、拳を合わせた。
——これじゃあ、もう、ただの共犯者だ。
侍女と令嬢の探り合いは、いつのまにか、ひとつの作戦を分け合う仲間に変わりつつあった。
それでもまだ、肝心の一言だけは——お互い、絶対に言わないままで。
次話:「鎌をかけたら、鎌で返された」




