第9話「正しい物語を守りたい人、登場」
セレスティアに呼び出されたのは、翌週の昼下がりだった。
人気のない中庭。彼女は噴水の縁に腰かけて、まっすぐに私を見ていた。
「ヴィオラ様。単刀直入に聞くわ」
「なにかしら」
「あなた、何を企んでいるの?」
——きた。
「企むだなんて。人聞きの悪い」
「とぼけないで。あなたは変わった。優しくなって、ミリアさんを庇い、殿下を遠ざけて。まるで——」
セレスティアの声がわずかに震える。
「まるで、自分から身を引こうとしているみたい」
鋭い。さすが原作の急先鋒。私の意図を、半分以上見抜いている。
「あなたには関係のないことでは?」
「関係あるわ」
ぴしゃり、と。
「物語には、正しい順序があるの。悪役令嬢は悪役令嬢らしくヒロインを苦しめ、断罪されて退場する。そうやって、ミリアさんは幸せになる。その順序を、あなたは乱している」
——え。
私は思わず息を呑んだ。
物語。正しい順序。悪役令嬢。ヒロイン。
今この子、はっきり言った。まるで、筋書きを知っているみたいに。
まさか。セレスティアも?
「セレスティア様。あなた、もしかして」
「……なに?」
睨み合う。彼女の瞳の奥で何かが揺れている。怒りでも悪意でもない。もっと切実な、何か。
でもそれ以上は踏み込めなかった。お互い、自分の手の内だけは絶対に見せない。
「とにかく」と、セレスティアは立ち上がった。
「あなたが順序を乱すなら、わたくしが正すまで。次の建国祭。あそこで、本来あるべき断罪が起きる。覚悟しておきなさい」
ドレスの裾を翻して、彼女は去っていった。
——建国祭。断罪フラグ、二本目。
胃の底がずしりと重くなる。
お茶会はロロのお菓子で乗り切った。でも今度はもっと大きい。王侯貴族が一堂に会する、公式の場だ。
しかもセレスティアが自ら、断罪を仕掛けてくる。
「正しい物語を守りたい」。そう言った彼女の、揺れた瞳を思い出す。
あの目は悪役の目じゃなかった。
この子も何かを抱えている。たぶん私やロロと同じくらい、重たい何かを。
次話:「殿下、それ心配のしすぎです」




