第10話「殿下、それ心配のしすぎです」
建国祭の準備で、王宮は慌ただしくなっていた。
私は私で、断罪フラグ二本目をどう折るか頭を悩ませている。そんなある日、また、ジルベールに捕まった。
「ヴィオラ嬢。また顔色が悪いぞ」
「殿下。気のせいです」
「いや。このところ、思いつめた顔をしている。悩みがあるなら、僕に言ってくれ」
まっすぐな碧の瞳。裏のない、本気の心配。
——いや、あなたに相談できる悩みじゃないんですよ。「あなたとミリアをくっつけて、私が円満に消える計画です」なんて、言えるわけがない。
「お気遣いなく。少し、考えごとをしているだけです」
「考えごと。この前もそう言っていたな」
ジルベールが一歩、近づいてくる。
「ヴィオラ嬢。婚約者候補とはいえ、僕たちはもっと互いを知ってもいいはずだ。君のことを、もっと知りたい」
——うわ。
まずい。これはまずい。
この人、私に好感度を上げてきている。原作ではミリアに向くはずの矢印が、なぜか私を向きかけている。
計画と真逆だ。
「殿下。それは……心配の、しすぎです」
「そうだろうか」
「ええ。それより殿下。建国祭では、ミリア様をエスコートなさってはいかが?」
露骨に話をそらす。ミリアの名前をぐいぐい押し込む。
ジルベールがきょとんとした。
「ミリア嬢を? なぜ」
「だって、薔薇の話で、あんなに盛り上がったではありませんか。気が合うのでしょう?」
「……たしかに、彼女は熱心に聞いてくれた。だが」
だが?
「君の話のほうが、僕は聞きたい」
——だめだこの王子。
天然というか、無自覚というか。本人にまったく悪気がないぶん、軌道修正がものすごく難しい。
その夜、私はロロに泣きついた。
「ロロ。殿下が、ミリア様じゃなくて、私に懐いてきてる」
「うわ。それは、想定外のバグですね」
「バグって言うな。でも、そうなの。早急にパッチを当てないと」
「攻略対象の好感度管理、難しいですもんね」
二人で頭を抱える。
破滅回避の道は思ったよりずっと険しいらしい。
次話:「前世の話は、しない約束でしょ」




