第11話「前世の話は、しない約束でしょ」
その夜、私はなかなか眠れずにいた。
建国祭。セレスティアの宣戦布告。ジルベールの暴走。考えることが多すぎて、頭がぱんぱんだ。
寝室の扉がこんと鳴った。
「お嬢様。起きてます?」
ロロだった。手には湯気の立つカモミールのお茶。
「眠れないかと思って」
「……ありがとう」
カップを受け取る。あたたかい。湯気の向こうで、ロロがベッドのそばに腰を下ろした。侍女らしからぬ距離の近さ。でも今夜はそれがありがたかった。
「ねえ、ロロ」
「はい?」
「私、ちゃんとできるかな。建国祭」
弱音だった。柄にもなく。
ロロは少し黙ってから、言った。
「できますよ。お嬢様は、もう、ひとりじゃないんだから」
その言葉に胸が詰まった。
——ああ、もう。だめだ。言ってしまいたい。
「ロロ。あのね。私、本当は」
前世の記憶があるの。あなたと同じ。だから、わかるの。あなたが何者なのかも。
喉まで出かかった。この子になら、全部、打ち明けてしまえる気がした。
でも。
「——お嬢様」
ロロがそっと私の言葉をさえぎった。
「前世の話は、しない約束でしょう」
え、と顔を上げる。
ロロはやわらかく、でも、どこか寂しそうに笑っていた。
「まだ、言わないでください。お互い」
「……なんで?」
「言っちゃったら、終わる気がするから。この、ふわふわした感じが」
ふわふわした感じ。
お互い知っているのに、知らないふりをして。探り合って、笑い合って。その、奇妙であたたかい時間。
たしかに、それは一度はっきりさせてしまえば消えてしまうのかもしれない。
「……わかった」
私はカップに口をつけた。カモミールが甘い。
「じゃあ、もう少しだけ。秘密のままで」
「ええ。もう少しだけ」
二人で笑った。
言わないことで、守られる関係もある。今はそれでいい。
——でもいつか。ちゃんと言葉にする日が来る気がした。
そのときはきっとお互いの、いちばん大事なことを。
次話:「バレてないと思ってるの、私だけ?」




