第4話「探ってるの、たぶんお互いさま」
お茶会の帰り道。馬車の中で、私とロロは向かい合っていた。
外では夕日が街並みをオレンジに染めている。車輪のたてる、ことことという音だけが続く。
切り出したのは私からだった。
「ロロ。さっきのお菓子、なんで作れたの」
「故郷の——」
「『故郷の適当』は、もういいわ」
ロロが口をつぐむ。
私はまっすぐにこの子を見た。もう、回りくどい鎌はやめだ。
「この世界に、あの味はない。あなたも、それを知ってて作った。違う?」
しばらく、沈黙。
ロロは窓の外に目をやって、それから——ふっと笑った。
「お嬢様こそ。なんで、あの味を知ってるんです?」
——きた。逆鎌。
そうだ。私が「この世界にない味」と気づいた時点で、私もそれを知っているとバレている。完全にお互いさまだ。
二人して、黙り込む。
馬車がことこと揺れる。
先に噴き出したのは、どっちが先だったか。
「……ふふっ」「……あはは」
気づいたら、二人で笑っていた。
おかしかった。お互い、相手が「あっち側」だと確信しているのに、自分のことは死んでも認めない。こんな茶番、いつまで続ける気だろう。
「ねえ、ロロ」
「なんです?」
「あなた、私の敵? 味方?」
ひと息に、いちばん聞きたかったことを聞いた。
ロロは笑いをおさめて、少しだけ真面目な顔になる。
「さあ。それは——お嬢様の出方しだいですね」
はぐらかし。でも棘はない。
「ただね」
ロロが続けた。
「退屈な結末は、好きじゃないんです。あたしも、たぶん、お嬢様も」
その言葉に、胸の奥がとくんと鳴った。
退屈な結末。——断罪されて、追放されて、消えていく悪役令嬢の末路。
この子はそれを「退屈」と言った。変えていいとでもいうみたいに。
「……そう」
私は窓の外に視線を逃がした。夕日がまぶしい。
認め合ったわけじゃない。打ち明けたわけでもない。
でもたしかに、何かが一歩、近づいた。
探り合いはまだ続く。きっとしばらくは。
——でももう、ひとりで震える夜じゃない気がした。
そう思うと、馬車の揺れが、少しだけ心地よくなった。
次話:「殿下、なんで園芸の話でその顔」




