第26話「もう全部、言っちゃおう」
「私、前世の記憶があるの」
言った。とうとう、言ってしまった。
口にした途端、部屋の空気が変わった気がした。灯芯の焦げるにおいだけが、かすかに漂っている。
ロロが息を止めたのがわかった。カップを持つ手が宙で止まっている。
「ここは前世でやり込んだ乙女ゲームの世界。『恋する宮廷のシンデレラ』。私はその悪役令嬢。卒業の舞踏会で断罪されて、追放される運命だった」
一度言葉にしたら、もう止まらなかった。
「だから、破滅を避けようと必死だった。ヒロインをいじめず、王子をミリア様にあげて、こっそり消えようとして。——全部、前世の知識で、立ち回ってたの」
初めて会った日からのことが、勝手に口からあふれていく。お茶会の焼き菓子に助けられたこと。夜会で「アップデート」と口走って、柱の陰に引きずり込まれたこと。便箋の透かしで、二人で断罪をへし折ったこと。
そのぜんぶを、私は「知ってて」やっていた。それを今、白状している。
カップを置く手が震えていた。陶器が受け皿に当たって、かちゃかちゃと情けない音を立てる。
墓まで持っていくつもりだった秘密。給料の半分を溶かした課金も、働きすぎて倒れたことも、ぜんぶひっくるめての「前世」。それを私はこの子の前で、全部ひっくり返した。
「気味が悪いって、思うかもしれない。でも、あなたには、ちゃんと知っていてほしかった。私が、何者なのか」
言い終えて、私は、ぎゅっと目をつぶった。
沈黙。
一秒がやけに長い。自分の心臓の音だけがうるさい。ロロの顔が見られない。
怖かった。引かれるのが。せっかく近づいた距離が、これで終わってしまうのが。
——でも。
「……ふっ」
聞こえたのは笑い声だった。
目を開ける。ロロが肩を震わせて笑っていた。
「やだ、お嬢様。なんで、そんな悲壮な顔して」
「えっ」
「ようやく、言いましたね。——あたしは、ずっと前から、知ってましたよ」
次話:「知ってた。あの紅茶の日から」




