第24話「花の名前で、人は和解できる」
気まずい数日が過ぎた。
ロロは仕事はきちんとこなす。でも前みたいに軽口を叩かない。距離ができてしまった。
そんなある日、王宮の庭で、ジルベールに声をかけられた。
「ヴィオラ嬢。元気がないな。何かあったのか」
「……いえ。ちょっと、大事な人と、すれ違ってしまって」
ジルベールは少し考えてから、一輪の薔薇を剪定鋏で切った。
「これを。アプリコット色の薔薇だ」
「殿下?」
「薔薇には、それぞれ花言葉がある。この色は——『信頼』と、『誠実』だ」
差し出された薔薇を私は受け取った。やわらかな、果実のような香り。
「言葉でうまく言えないときは、花に託すといい。僕は、いつもそうしている」
——花の名前で人は和解できる。
そういえば、この人は、ずっとそうやって生きてきた。口下手で不器用で。でも花の世話を通して、誰かに想いを伝えてきた。
その夜、私は、ロロの部屋の扉をノックした。
返事はない。
私は扉の前に、アプリコット色の薔薇をそっと置いた。それから、小さな手紙を添える。
『ちゃんと、話したいことがあります。あなたにいちばんに。——ヴィオラ』
信頼と誠実。
伝えられるかわからない。でも伝えたかった。
翌朝。
扉の前の薔薇はなくなっていた。
代わりに、私の机の上に淹れたてのカモミールのお茶が置かれていた。
次話:「離れてみて、わかること」




