第23話「黙ってるのが、いちばんずるい」
それはほんの偶然だった。
私が席を外したすきに、ロロが机の書類を片付けようとして——見つけてしまった。
辺境の家の、賃貸契約書。私の名前。舞踏会の翌日の、日付。
戻ってきた私が見たのは、その書類を手にした、ロロの背中だった。
「ロロ……それは」
ロロが振り返る。その顔から、いつもの軽さが消えていた。
「……消えるつもりだったんですか。ひとりで」
声が低い。
「黙って。あたしにも、誰にも、何も言わずに」
「ロロ、聞いて。これは——」
「ずっと、二人でやってきたじゃないですか」
ロロの声が震えた。
「一緒に作戦練って、一緒に笑って。あたし、もうひとりじゃないって思ってたのに。お嬢様は最初から、消えるつもりだった」
「違う。違うの。あなたを、巻き込みたくなくて」
「それ、ずるいですよ」
ぴしゃり、と。
「都合のいいときだけ一緒にいて。最後は黙って消える。残されるこっちの気持ちは考えないんですか」
言葉が出なかった。
ロロの言うとおりだった。私は自分が傷つかないように、別れを「綺麗な退場」だなんて言い換えて。残していく人のことを、見ないふりをしていた。
黙っているのがいちばん、ずるい。
「……ごめん」
それしか、言えなかった。
ロロは書類を机に置くと、何も言わずに部屋を出ていった。
その夜、カモミールのお茶は、運ばれてこなかった。
次話:「花の名前で、人は和解できる」




