第21話「近いから、言えないこともある」
破滅はほぼ回避できた。
ジルベールとミリアは、順調に距離を縮めている。セレスティアとは和解した。断罪フラグは二本とも折れた。
あとは卒業の舞踏会を波風なく終えるだけ。そうすれば、私は婚約者候補から外れ、晴れて自由の身になる。
——そして、静かにここから消える。
それが最初からの計画だった。
辺境の、小さな町。誰も私を知らない場所で、ぬるい紅茶を飲みながら、本を読んで暮らす。前世から願っていた、穏やかな余生。
その準備を、私はこっそり進めていた。
小さな家を借りる手配。当面の生活費。誰にも告げず、舞踏会の夜にふっと姿を消すための、段取り。
「お嬢様。なに見てるんです?」
ロロの声に、私は慌てて、書類を伏せた。
「な、なんでもない。ちょっとした書きもの」
「ふうん」
ロロが首をかしげる。その目が少しだけ、引っかかったように見えた。
胸がちくりとした。
ロロには言っていない。私がここから消えるつもりだということを。
最初は当たり前だと思っていた。誰にも告げず、ひとりで消える。それが悪役令嬢のいちばん綺麗な退場のしかた。
でも今は。
一緒に作戦を練って、一緒に笑ってきたこの子に「実は黙って消えます」なんて言えるだろうか。
——近いから、言えないこともある。
遠い相手になら、平気で言える。「お世話になりました」って。
でも近くなりすぎた相手には、別れの言葉ほど、口にするのが怖くなる。
私は伏せた書類を、そっと引き出しの奥にしまった。
次話:「踏み込めない一線がある」




