第20話「もう、観察対象じゃないでしょ」
セレスティアと和解した夜、屋敷に帰ると、ロロが起きて待っていた。
「おかえりなさい、お嬢様。……なんだか、いい顔してますね」
「そう? まあ、いろいろ片付いたから」
私は椅子に腰を下ろして、セレスティアのことを話した。断罪された姉のこと。彼女がそれを「正しい順序」だと思い込もうとしていたこと。そして和解して、一緒に姉を探すと約束したこと。
ロロはお茶を淹れながら、めずらしく相槌も打たずに、最後まで黙って聞いていた。聞き終えるとふっと小さく笑う。
「お嬢様って、ほんと放っておけない人ですね。敵だった相手の身の上話まで、しっかり背負い込んで」
「悪い?」
「いいえ。——でも、ちょっとだけ、ずるいです」
「ずるい?」
ロロが淹れたてのお茶を差し出してくる。その手がいつもよりほんの少しだけ、ためらっているように見えた。
「あたし、最初はね、お嬢様のことをただの面白い観察対象だと思ってたんです。原作と違う動きをする珍しい悪役令嬢を端っこから眺めて、どう転ぶか見ててやろうくらいの気持ちで」
——え。
カップの湯気の向こうで、ロロは窓の外の夜空に目をやった。
「あたし、前世でもそういう人間だったんですよ。誰の物語にも入らないで、いつも端っこで眺めてるだけ。そのほうが楽だし、何より傷つかなくて済むから」
その横顔がふいに、ひどく寂しそうに見えた。いつも飄々として何を考えているのか読ませないこの子の、初めて覗いた素顔だった。
「でも、お嬢様を見てたら、どうにも放っておけなくなって。気づいたら一緒に作戦を練って、一緒に慌てて、一緒に馬鹿みたいに笑ってて。——もう、観察してるどころじゃ、なくなってたんです」
ロロがまっすぐに私を見た。
「だからね、お嬢様。あなたはもう、あたしの観察対象なんかじゃないんですよ」
胸がいっぱいになった。
この子もずっとひとりだったんだ。傍観者のふりをして、誰かの物語に入りたいのに入る勇気が出せなくて。私が前世を隠して震えていたのとたぶん同じ場所で。
「ロロ」
「はい?」
「あなたも、もう、ただの侍女じゃないわ。私にとって」
二人で笑った。
正体はまだ言わない。前世の話もしない。それでもお互いがお互いにとって特別になっていることだけは、もう隠しようがなかった。
次話:「近いから、言えないこともある」




