第14話「破滅、予定どおり近づいてます」
建国祭の朝が来た。
王宮は朝から色とりどりの旗で飾られ、楽団の音合わせが中庭のほうから途切れ途切れに響いてくる。祝祭の、浮き立つ空気。けれど私の胸の中は、それどころじゃなかった。
今夜の大広間で、セレスティアが動く。私を断罪するために。
「お嬢様。ドレス、こちらでよろしいですか」
ロロが深い青のドレスを広げてみせる。地味すぎず、派手すぎず。目立たず、でも侮られない。完璧な選択だ。
「ありがとう。……ねえ、ロロ。本当に、うまくいくかな」
「いきますよ」
ロロはきっぱりと言った。手を止めずに、ドレスの皺を伸ばしながら。
「あたしたち、ゆうべ10回はシミュレーションしたじゃないですか。セレスティア様が偽の手紙を出す。あたしが便箋の矛盾を指摘する。お嬢様が証人を立てる。三段構えです。どこかひとつ崩れても、別の手で止まる」
「……理屈では、そうなんだけど」
鏡の前に立つと、知らず、指先が冷たくなっていた。
これは原作で私が断罪される夜だ。前世で何度も見た、悪役令嬢の、いちばん惨めなスチル。婚約破棄。糾弾。追放。あの絵が現実になるかもしれない。
「怖い、ですか」
ロロが鏡ごしに私を見た。
「……正直、少し」
「珍しい。お嬢様が、弱音」
「茶化さないでよ」
「茶化してませんよ」
ロロは私の髪に櫛を入れ始めた。ゆっくりと丁寧に。櫛の通る感触がささくれだった気持ちを、少しずつ、なでていく。
「怖いのは、本気でやってる証拠です。どうでもいい相手になら、怖くもなんともない。お嬢様は、ちゃんと、自分の運命と、向き合ってるんですよ」
その言葉に、ふっと肩の力が抜けた。
「……あなた、たまに、いいこと言うわね」
「たまには余計です」
くす、と二人で笑う。
「証人は、来てくれるかしら」
ふと口をついて出た。いちばんの不安。
私は昨日、ある人物のところへ頭を下げに行った。原作では私を見捨てる側だった人。セレスティア家の、元侍女。手紙の偽造に手を染めて、それを悔いて、屋敷を出た娘だ。
「お嬢様が、本気で頭を下げて頼んだ相手でしょう。来ますよ」
「断られたら?」
「そのときは、そのとき。別の手を考えます。二人で」
二人で。
その一言がどんな作戦書よりも心強かった。
ドレスに袖を通す。鏡の中の私は思ったより、ちゃんとした顔をしていた。怯えてはいるけれど、逃げてはいない、悪役令嬢の顔。
「行きましょうか、ロロ」
「はい、お嬢様。——あ、ひとつだけ」
「なに?」
「向こうで、また『アップデート』とか言わないでくださいね」
「言わないわよ!」
破滅は予定どおり、近づいている。
でも今年の私はひとりじゃない。隣に、口の減らない共犯者がいる。
——いざ、勝負。
次話:「敵の前では、休戦しましょ」




