第33話「十二月の光」
十二月になった。
朝、吐く息が白かった。
マフラーを巻く生徒が増えた。
教室の窓際には結露がついていた。
気づけば、あの夜から二ヶ月が過ぎていた。
ストーカーは現れなかった。
千景は以前より教室にいる時間が増えた。
咲良は相変わらず何かを調べているようだったが、その話を口にすることは少なくなった。
蒼は毎朝図書室にいた。
放課後は射場に来た。
隼と三人で学食に行くことも増えた。
変わったような気もしたし、何も変わっていないような気もした。
どちらでもよかった。
今の日々は、穏やかだった。
十二月の教室は少し浮ついていた。
クリスマスが近いからだろう。
廊下では恋愛の話が増えた。
誰が誰に告白するらしいとか、どこへ遊びに行くらしいとか。
そんな話があちこちから聞こえてくる。
私は昔から、その空気が少し苦手だった。
昼休み。
隼が珍しく一人でやってきた。
「蒼は?」
「購買。パン戦争に巻き込まれてる」
「大変そう」
隼は咲良の隣へ座った。
「なあ」
弁当を開きながら言う。
「クリスマスって、みんなどうするの?」
「別に何もしない」
私が答える。
「リアさんでも?」
「リアさんでもって何」
「なんか豪華そうじゃん」
「しない」
「夢が壊れた」
咲良が笑った。
「最初から勝手な夢でしょ」
「それはそう」
隼は頷いた。
それから少し考え込む。
「ていうかさ」
「何」
「二人って付き合ってないの?」
「付き合ってない」
即答した。
「でも毎朝図書室いるじゃん」
「いるね」
「毎日話してるじゃん」
「話してるね」
「付き合ってないの?」
「付き合ってない」
隼は納得していない顔だった。
咲良が肩をすくめる。
「そういうこともあるんじゃない?」
「あるのかなあ」
そんな話をしているうちに、蒼が戻ってきた。
紙袋を持っている。
「遅かった」
「混んでた」
蒼は隼の隣に座った。
「何の話?」
「クリスマス」
「なるほど」
蒼は少し考えた。
「したいことはある」
隼が即座に食いついた。
「何?」
「まだ言えない」
「怪しい」
「怪しいね」
咲良も乗る。
「怪しくない」
そう言いながら、蒼は少し笑った。
否定する気があまりなさそうだった。
放課後。
射場へ向かった。
三上先生が来ていた。
「最近安定してるな」
「そうですか」
「秋からずっといい」
先生は的を見ながら言う。
「夏は乱れてた」
図星だった。
「弓は正直だからな」
「はい」
それだけ言って去っていった。
私は弓を構えた。
引く。
当たる。
もう一本。
当たる。
五本目を引き終えた頃、蒼が来た。
「今日も調子いい」
「今のところ全部」
「見てる」
六本目。
七本目。
入る。
八本目を引こうとしたときだった。
「リア」
「今引いてる」
「ごめん」
思わず笑った。
矢を放つ。
入った。
「それで?」
「クリスマス」
「うん」
「空いてる?」
ずいぶん真っ直ぐだった。
「空いてるけど」
「一緒にいていい?」
その言い方が少しおかしくて。
私は小さく笑った。
「いいよ」
蒼は何も言わなかった。
でも少しだけ安心した顔をした。
「まだ言えないことがあるの?」
「ある」
「クリスマスまで秘密?」
「そう」
「分かった」
九本目。
十本目。
どちらも入った。
全部中った。
弓を下ろす。
「全部入った」
蒼が言う。
「うん」
「最近ずっと安定してる」
「そうかも」
理由は分かっていた。
でも言わなかった。
蒼も聞かなかった。
それで十分だった。
片付けを終えて射場を出る。
外はもう暗かった。
冬の夕方は早い。
窓の向こうに夜の色が広がっている。
廊下を歩きながら、蒼が言った。
「クリスマスまで」
「うん」
「楽しみにしてていい?」
その聞き方に、また少し笑った。
「していいよ」
蒼は笑った。
今日見た中で、一番素直な笑顔だった。
その顔を見ながら思う。
今年の十二月は、去年と少し違う。
理由はまだ分からない。
ただ、クリスマスが来るのを待っている自分がいた。
それだけは確かだった。
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