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【9/17完結!】桜渓の孤星  作者: 筑紫隼人
第4章「虚飾の晩餐」 

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第33話「十二月の光」

十二月になった。


朝、吐く息が白かった。


マフラーを巻く生徒が増えた。


教室の窓際には結露がついていた。


気づけば、あの夜から二ヶ月が過ぎていた。


ストーカーは現れなかった。


千景は以前より教室にいる時間が増えた。


咲良は相変わらず何かを調べているようだったが、その話を口にすることは少なくなった。


蒼は毎朝図書室にいた。


放課後は射場に来た。


隼と三人で学食に行くことも増えた。


変わったような気もしたし、何も変わっていないような気もした。


どちらでもよかった。


今の日々は、穏やかだった。


十二月の教室は少し浮ついていた。


クリスマスが近いからだろう。


廊下では恋愛の話が増えた。


誰が誰に告白するらしいとか、どこへ遊びに行くらしいとか。


そんな話があちこちから聞こえてくる。


私は昔から、その空気が少し苦手だった。


昼休み。


隼が珍しく一人でやってきた。


「蒼は?」


「購買。パン戦争に巻き込まれてる」


「大変そう」


隼は咲良の隣へ座った。


「なあ」


弁当を開きながら言う。


「クリスマスって、みんなどうするの?」


「別に何もしない」


私が答える。


「リアさんでも?」


「リアさんでもって何」


「なんか豪華そうじゃん」


「しない」


「夢が壊れた」


咲良が笑った。


「最初から勝手な夢でしょ」


「それはそう」


隼は頷いた。


それから少し考え込む。


「ていうかさ」


「何」


「二人って付き合ってないの?」


「付き合ってない」


即答した。


「でも毎朝図書室いるじゃん」


「いるね」


「毎日話してるじゃん」


「話してるね」


「付き合ってないの?」


「付き合ってない」


隼は納得していない顔だった。


咲良が肩をすくめる。


「そういうこともあるんじゃない?」


「あるのかなあ」


そんな話をしているうちに、蒼が戻ってきた。


紙袋を持っている。


「遅かった」


「混んでた」


蒼は隼の隣に座った。


「何の話?」


「クリスマス」


「なるほど」


蒼は少し考えた。


「したいことはある」


隼が即座に食いついた。


「何?」


「まだ言えない」


「怪しい」


「怪しいね」


咲良も乗る。


「怪しくない」


そう言いながら、蒼は少し笑った。


否定する気があまりなさそうだった。


放課後。


射場へ向かった。


三上先生が来ていた。


「最近安定してるな」


「そうですか」


「秋からずっといい」


先生は的を見ながら言う。


「夏は乱れてた」


図星だった。


「弓は正直だからな」


「はい」


それだけ言って去っていった。


私は弓を構えた。


引く。


当たる。


もう一本。


当たる。


五本目を引き終えた頃、蒼が来た。


「今日も調子いい」


「今のところ全部」


「見てる」


六本目。


七本目。


入る。


八本目を引こうとしたときだった。


「リア」


「今引いてる」


「ごめん」


思わず笑った。


矢を放つ。


入った。


「それで?」


「クリスマス」


「うん」


「空いてる?」


ずいぶん真っ直ぐだった。


「空いてるけど」


「一緒にいていい?」


その言い方が少しおかしくて。


私は小さく笑った。


「いいよ」


蒼は何も言わなかった。


でも少しだけ安心した顔をした。


「まだ言えないことがあるの?」


「ある」


「クリスマスまで秘密?」


「そう」


「分かった」


九本目。


十本目。


どちらも入った。


全部中った。


弓を下ろす。


「全部入った」


蒼が言う。


「うん」


「最近ずっと安定してる」


「そうかも」


理由は分かっていた。


でも言わなかった。


蒼も聞かなかった。


それで十分だった。


片付けを終えて射場を出る。


外はもう暗かった。


冬の夕方は早い。


窓の向こうに夜の色が広がっている。


廊下を歩きながら、蒼が言った。


「クリスマスまで」


「うん」


「楽しみにしてていい?」


その聞き方に、また少し笑った。


「していいよ」


蒼は笑った。


今日見た中で、一番素直な笑顔だった。


その顔を見ながら思う。


今年の十二月は、去年と少し違う。


理由はまだ分からない。


ただ、クリスマスが来るのを待っている自分がいた。


それだけは確かだった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


「続きが気になる」と思っていただけましたら、ブックマークや評価をいただけると励みになります。


一つひとつの応援が、この物語を最後まで書き切る力になっています。


次話もお付き合いいただければ嬉しいです。

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