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Ⅵ
——ドンッ
「ねぇ、この間、田野口先生が言っていたんだけど」
「国語の?」
国語の田野口先生と言えば、授業中に雑学を披露することで有名だ。授業中のトークも面白く、教えるのが上手いということで生徒に人気がある。
その田野口先生だろうか?
勇哉はこくりとうなづく。
「なぜ、人は花火と桜を恋人と見にいくのかって話。聞いたことある?」
——ドンッ
「……ないよ」
「……それはね」
——ドンッ
「花火も、桜も、恋も、儚いものだからなんだって」
「……そっか……」
——ドンッ
「……でもね、田野口先生は言っていなかったけど」
勇哉の口調が暗くなった。
「僕はね、思うんだ」
——ドンッ
振り返ってみると、勇哉は俯いている。
「……儚いものは、それだけじゃない」
——ドンッ
「……それはね」
「……人の命」
耐えきれなくなって、その言葉の続きを言ってしまった。
——ドンッ
「……その通りだよ」
——ドンッ
私は、あの事故でそのことを思い知らされたのだ。それを言おうとして、口を開く。
「だってあの事故は——」
「——友香の命を簡単に奪っていったから」
私の言葉を、勇哉が継いだ。
予想外の言葉で。




