受け取っただけ
審査室へ通されたのは翌日の午後だった。机の向こうには若い補佐官が座り、ハルヴェの記録を一枚ずつ眺めた。彼は「支援がなかった証拠」を求めた。ミラは返事のなかった書簡の控えと、支援を認めないという前回の回答を出した。何も届かなかったことを紙で示すのは難しかった。
補佐官は税の期限を守るのが原則だと繰り返したが、種麦をすぐ取り上げると翌年の税も減る点には頷いた。エダは収穫記録を開き、実際に使える麦の量を説明した。相手が全部理解したかは分からない。ただ、無理に話を急がず質問に答えた。
やがて補佐官は審査のため現地確認が必要だと言った。誰が来るか、いつ来るかはまだ決まらない。ミラは村で迎える準備をすべきか尋ねたが、特別な接待は不要だと答えられた。その一言にエダは安心した。食料を使って役人をもてなす余裕はなかった。
別室の書記から、今回提出した紙の受領控えを受け取った。そこには税の額を変える決定は書かれていない。ミラは何度も確かめ、希望だけを持ち帰らないようにした。宿へ戻る途中、町の水路で子どもが足を洗っていた。村ではできないほど豊かな水の使い方だった。
補佐官の机には、別の村から届いた濡れた申請書が積まれていた。端を乾かした跡があり、紙が波打っている。エダは村の紙を守る工夫が役立ったことに少し安堵した。補佐官も一人で全ての決定をしているわけではないらしい。書類を回す先が幾つもあると聞いて、返答に時間がかかる理由の一端が分かった。
夜、エダは「怒らなかったのがよかったのかな」と聞いた。ミラは分からないと答えた。怒鳴れば早く進む仕事も、あるのかもしれない。けれど今日、彼女たちが手にしたのは役所が書いた日付と受領の印だけだった。その小さな確かさを、村へ持ち帰ることにした。




