雨の地図
グレサから古い帳面が見つかったという知らせが届いた。先代の記録係が洪水の年に、川筋と畑の持ち主を描いていたらしい。ミラはすぐ境界が分かると思ったが、紙の端は水で滲み、柳の印は今とは違う場所に描かれていた。昔の地図が正確であるほど、川がどれだけ変わったかも分かってしまう。
エダは両方の地図を並べ、共通する道と石に印を付けた。ベルクは木の年齢から川の位置を推し量ろうとしたが、オル婆が「柳は切ってもまた伸びる」と教えた。見た目の大きさだけで昔を測れない。村人たちは知っていることと推測を分けて記録した。
地図の確認には、畑の持ち主二軒にも参加してもらった。ハルヴェ側の男は水路の跡を自分の土地だと言い、グレサ側の女は亡父の畑を削られたくないと訴えた。ミラはすぐに公平な線を引こうとせず、今年作付けした畝を荒らさないことから合意を探した。
結論は夏の収穫後まで先送りになった。ただし柳の通行止め、草刈り、増水時の見回りは共同で続ける。ベルクは合意事項を読み上げ、両村の記録係が同じ文を写した。印を押す前に、一行ずつ意味を確かめる時間が必要だった。
会議の間、オル婆は軒先で古い洪水の年を指折り数えていた。生まれた子や亡くなった人を手掛かりにすると、年のずれに気づいたという。エダは地図へ書き込む前に、村の葬儀記録と照らし合わせた。記憶が間違っていたとしても、話してくれた人が恥をかかないよう伝え方を選んだ。
会議が終わると、グレサの少女は地図を乾かすための板を持って帰った。ミラは畑へ戻り、土の上に残る足跡を見た。古い紙が答えを一つに決めてくれるわけではない。それでも人の記憶が薄れる前に書き残したものは、今の人々が話を始める足場になった。




