離れた椅子
咳のある家へ食事を運ぶ時、担当の少女が怖がって近づけなくなった。代わりを申し出た男は「気合が足りない」と笑った。サラはその言葉を聞くと、運ぶ係を一度解散させた。怖いと思う人に無理をさせれば、次に誰も引き受けなくなる。ミラは食事の置き場所と受け渡し方法をもう一度見直した。
家の前に置く低い椅子をギルが作り、家族が中から取れるようにした。ただし雨の日は食べ物が濡れる。レアが古い布で覆いを縫い、椅子を庇の下へ移した。受け取りの合図は窓を軽く叩くことにしたが、夜遅くは眠りを妨げるので使わない。
少女はしばらく別の仕事に回った。サラは彼女に共同鍋の芋の皮むきを頼み、代わりに自分で食事を運んだ。役目を変えても必要な仕事はなくならない。村人たちは少しずつ、同じ仕事を全員が同じようにできるわけではないと覚えていった。
祖父が村へ戻った時、彼は椅子を見て驚いた。「誰かが病人を怖がった証か」。サラは「怖くても、食事を届けるための椅子だよ」と答えた。老人はしばらく黙り、受け取った椀を両手で包んだ。身を寄せ合うことだけが支えではない。距離を置く優しさもあった。
病人の家から戻るサラへ、少女は椀が空になったかと尋ねた。サラは全部食べたと伝え、運べなかった少女にも助かった仕事があると言った。彼女が芋を剥かなければ、汁の準備が遅れていた。怖がったことを消さずに、できた仕事を一つ数えられるようにした。
ミラは椅子をいつ片付けるか尋ねたが、ギルは残しておこうと言った。腰の悪い人が荷を受け取る時にも使える。初めは病人のために置いた物が、別の人にも役立った。誰かの弱さを見えないところへ押し込めずに済む道具が、村の戸口に一つ増えた。




