水甕の順番
共同井戸の前で、洗濯桶を持った女と家畜用の桶を持った男が言い争っていた。早朝から並んだ順だと女は言い、弱った山羊に今すぐ水が要ると男は訴えた。水の量は足りていても、汲む時間には限りがある。ミラは順番札を作れば済むと思ったが、ダレンに止められた。「井戸は札どおりに水を出さない」。
滑車の縄は暑さで伸び、二度に一度は桶が斜めになる。まずダレンとギルが縄を掛け直し、重い桶を持ち上げるための足場を整えた。井戸の縁に子どもが並ばないよう、待つ場所も移した。順番が守れても、落ちる危険があっては意味がない。
エダは朝に必要な水を、飲み水、煮炊き、家畜、洗濯に分けて聞いた。ただし病人の家や出産間近の家畜があれば優先は変わる。細かな決まりを書いた板より、困った時に声を掛けられる相手を決めたほうがよいとサラは言った。そこで井戸番は一人に固定せず、数人が交代することになった。
女は洗濯を昼へ移し、男は山羊の桶を先に汲んだ。互いに謝ったわけではない。それでも翌朝、男が女の桶を運ぶ姿があった。水を奪い合った二人が急に仲良くなる必要はなかった。順番と理由が見えれば、怒鳴る前に確かめることができる。
水甕の横には、桶を置くための低い台を作った。腰の悪いオル婆が地面から重い桶を持ち上げずに済むようにするためだ。ただし台が高すぎると、今度は子どもが届かない。セランは脚を二組用意し、使う人の背に合わせて置き場所を分けた。
ミラは夜、井戸の待ち時間を帳面に書いた。水量の欄には余裕がある一方、縄の傷みは増えている。いつか水が本当に足りなくなる時も来るだろう。今は水そのものより、水を汲む仕組みを守る日だった。




