二つの坂
村の上手にある六軒は、水場から遠かった。共同井戸へ行くには細い坂を使う。夜露が凍ると滑り、冬には必ず誰かが転んだ。ミラが通り道を数えると、朝夕それぞれ三十を超える足跡があった。人が多いのではない。同じ人が何度も往復していた。
彼女は坂を広げるよう頼んだが、農夫ハロルドは畑の脇を削ることに反対した。「水のために土を失えば、春の麦が減る」。ミラは口を閉じ、別の道を探した。林の中には緩やかな斜面があったが、倒木が邪魔をしている。森番のオスカーが幹の状態を見て、燃料にできる部分だけ運び出す案を出した。
林の斜面を選ぶとき、オスカーは春に水が流れる筋を指した。今は乾いていても、雨が続けば道そのものが溝になる。ミラはそこを避けて歩き、木の根が地面を支える場所には手を付けなかった。倒木をどかした後も、細い枝は全部刈らず、土が流れそうな所に残した。道を広げすぎれば、守りたい坂が崩れるかもしれない。
ハロルドの平石は形が揃わず、ルークが並べると足を取られた。オスカーは一枚ずつ裏を掘って高さを合わせ、隙間には小石を詰めた。早く終えたい大人たちを横目に、オル婆は何度も試しに歩いた。「ここは怖くない」と言った場所へ、最後の石が置かれた。誰が使う道なのか、石の数より確かな答えがあった。
新しい道を開くのに三日かかった。最後の根を抜くと、歩幅の小さいオル婆も休まず上がれた。それでも雨の日には泥になる。ハロルドは自分の畑から余った平石を数枚運び、曲がり角へ埋めた。「畑を削らずに済んだからな」と言い訳した。ミラは礼だけ言った。古い坂を閉じることはしない。水のない日も、火事の日も、道は一つより二つあったほうがいい。




