古い井戸縄
井戸端で、水桶が突然落ちた。縄の途中が切れ、桶は深い水面に沈んだ。汲み上げようと身を乗り出した少年ルークを、ミラが腕で止めた。井戸の縁の石が一つ、靴の下で揺れていたのだ。少年は「桶を取らないと叱られる」と言ったが、ミラはまず井戸の周りを紐で囲んだ。
石工のダレンは畑の用水路を直している最中だった。「二日は空かない」と言う彼に、ミラは沈んだ桶より石の状態を見てほしいと頼んだ。ダレンは夕方だけ来て、縁の二石を外した。土が雨で流され、下の土台が露出していた。もう一歩前へ出ていれば、ルークごと落ちたかもしれない。彼は叱るより先に震えた。
井戸を塞いだ縄の前で、老人が立ち尽くしていた。昔から使ってきた水場へ近づけないのが寂しいのだという。ミラは無理に納得させず、石を直している間だけだと説明した。ダレンが地面を掘ると、古い木片が見つかった。過去にも縁を補修した跡があり、その木はすっかり黒ずんでいた。繰り返し起きていた小さな崩れを、誰もまとめて確かめていなかった。
水汲みの列では若者が老人の桶を運んだが、代わりに自分の畑へ行く時間が遅れる。ミラは運搬を毎日同じ人に頼まないよう、昼の当番も作った。井戸が一つ使えなくなるだけで、村の別の仕事に影響が出る。修理の音は広場まで届き、汲み手たちは時々そちらへ目を向けた。
翌朝、井戸の使用を一つ隣の共同井戸へ移した。遠くなった分、汲み手を交代制にしたが、不満は当然出た。ミラ自身も肩を赤くして水を運んだ。ルークは新しい縄の結び方をギルから教わり、二度ほど結び直した。桶を拾うのは石を固めてからでいい。水を使う暮らしを止めず、人も落とさない。その順序を村が覚えるまで、縄の囲いは残された。




