返せない借り
リネは朝食のパンを半分だけ食べ、残りを布に隠した。サラは叱らず、午後にも食べられると伝えた。ところが少女は「あとで返す」と言い張った。峠の向こうでは、パンをもらえば薪運びか洗濯で返さねばならなかったという。無償で出された食事に、何か裏があると思っているらしかった。
ミラはこの村でも食べ物が無限にあるわけではないと正直に言った。共同鍋には持ち寄りの決まりがあり、余裕のない家は仕事で助けることもできる。ただし今日の一杯を借金にする決まりはない。リネは理解した様子を見せず、パンをまた包み直した。
ティアは妹の態度を恥じ、何度も謝った。エダは「謝ることを増やさないで」と二人に帳面を見せた。滞在する人数と必要な食事は既に計算に入れてある。もちろん秋の収穫次第で見直すこともあるが、その時は皆に説明する。黙って誰かだけの皿を減らさないことが、ここでの約束だった。
昼過ぎ、リネはレアの縫いかけの布をじっと見ていた。針を使えるか尋ねると、少しだけうなずく。端切れを渡された少女は破れた袋の口を器用に留めたが、礼を言われると手を引っ込めた。レアは無理に褒めず、次に縫う時も手を借りたいとだけ告げた。
共同鍋から食べ物を受け取る時、リネは必ず姉の顔を見ていた。ティアが頷かなければ手を伸ばさない。サラは気づいていても二人をせかさず、温かい汁を少なめに盛ってお代わりを残した。食べきれなければ申し訳ないと思う少女には、その方が椀を持ちやすかった。
その夜、リネは残しておいたパンを食べた。ミラは何も言わなかった。誰かの親切を信じるには、何度も同じ朝が必要なのだろう。帳面の食数欄には小さな数字が二つ増えた。数字の向こうにいる二人の暮らしは、まだ村へ完全には馴染んでいなかった。




