峠からの足音
ティアが妹のリネを連れて戻ってきたのは、風の強い夕暮れだった。二人とも痩せ、靴には泥がこびりついていた。ティアは迎えを頼まずに峠へ出たことを詫び、リネは誰とも目を合わせなかった。サラが温かい汁を勧めても、少女は椀を抱えたまま口を付けない。旅で何があったのか、急いで聞き出せる様子ではなかった。
泊まる家は空いていない。マルタの借りている納屋なら藁を敷けるが、雨が入る。レアは自分の裁縫部屋を半分空けると言ったものの、夜も針仕事をする。ミラはそれぞれの申し出を聞き、二人が落ち着いて眠れる場所を優先した。結局、ベルクの家の使っていない小部屋を借りることになった。
リネは荷物を抱え、鍵の有無を確かめた。「勝手に入ってこない?」。ベルクは戸の内側に掛け金を付け、食事を運ぶ時も必ず声を掛けると約束した。ミラは姉妹に村の決まりを一度に説明しなかった。危険な井戸と橋のことだけ伝え、残りは明日にした。
ティアは翌朝から働きたいと言ったが、足には水ぶくれができていた。サラは汁の鍋を火から下ろし、二日ほど休んでから何ができるか考えようと答えた。働かずに世話になるのを嫌がる姉を、リネが袖を引いて止めた。二人にとって休むことが簡単ではないのだと、ミラは思った。
リネが持っていた袋には、着替え一組と小さな木の櫛しかなかった。ティアは自分で削った櫛だと教え、目を潤ませた。サラは湯を沸かしたが、二人の汚れた服を勝手に洗わなかった。荷物が少ない人ほど、持ち物の扱いを自分で決めたいことがある。
夜更け、ベルクの家の窓に細い灯が残った。外で雨戸を確かめていたミラは、姉妹の話し声が聞こえると足を止めた。内容までは分からない。二人が同じ部屋で話せることが今夜は大切だった。朝になれば、食事や寝床や仕事を少しずつ決めていけばよい。




