地図にならない湿地
村の東には、子どもが近づくなと言われる湿地があった。昔は草地だったと老人たちは言うが、今は水が溜まり、夏には虫が多い。ミラは畑を増やせるかもしれないと考えたが、オスカーに案内されて泥へ足を入れると、すぐに長靴が沈んだ。「この土地には、この土地の水がある」と彼は言った。
ミラは湿地を干す案を急がず、水の出口を探した。湿地の縁には小さな流れがあり、雨の日には村から来る濁り水も入っていた。もし全部を排水すれば、下流の小川が荒れるかもしれない。ニーナは湿地に生える薬草の場所を示し、消えて困るものがあると教えた。
湿地の奥には鳥が巣を作っていた。オスカーは足跡を見つけると立ち止まり、ミラへ近づかないよう手で示した。鳥の姿は見えなかったが、踏みつければ卵が割れるかもしれない。道を作る候補だった場所は、その場で地図から外した。新しい畑がほしいという村人の声は、ミラの耳にも残っていた。
帰り道、ニーナは湿った土から細い草を一本抜き、乾いた土地では育ちにくい薬草だと教えた。薬草を守ることが必ず村の利益になるとは限らない。それでも何があるか知らずに土地を変えるのは危うい。ミラは空欄の多い地図を見て、無理に答えを書き込まないまま机へ置いた。
結局、その日は測った場所へ枝札を立てて帰った。村長は「畑にできなかったのか」と尋ねたが、ミラは「畑にする前に知りたいことが増えた」と答えた。土地を見れば空いているところに何かを作りたくなる。だが空いているように見える場所にも、水や草や獣の通り道がある。湿地の地図には、まだ白い部分が大きく残った。




