峠へ帰る人
ティアは妹を迎えに行きたいと言った。峠の道はまだ雪が残り、橋も傷んでいる。村人の中には無謀だと止める者がいた。しかしティアの家族のことを、誰も彼女の代わりには決められない。ミラは引き止めず、通れる道を一緒に確かめた。
オスカーは林を抜ける尾根道を教え、セランが杖の金具を直した。レアは暖かい外套のほつれを縫い、ニーナは足の傷の様子を見た。荷物が重くなりすぎないよう、ティア自身が必要な物を選ぶ。ミラは村から渡す食料を共同の備蓄から出してよいか会議で諮った。反対した家もあったので、希望者の持ち寄りだけにした。
ティアの荷物を軽くするため、レアは着替えを薄い袋へ詰め直した。雨を防ぐ布は必要だが、道中ずっと重さになるものは置いて行く。村で預かる荷物には名前を書き、戻らなかった時の扱いも決めた。ミラはその相談が胸に刺さったが、曖昧な約束のまま別れるほうが辛いと分かっていた。
オスカーは峠に入る前の最後の水場を教え、天候が崩れたらどこへ戻るか確認した。ティアは一つずつ復唱した。ルークは道の途中で拾った丸い石を渡そうとしたが、荷物になると気づき、代わりに小さな木札へ花を描いた。ティアはそれを外套の内側へしまった。送り出すこともまた、村が新しく覚えた仕事だった。
出発の朝、ティアは村の南門で立ち止まった。「妹を連れて来てもいい?」。ベルクは「まず無事に帰っておいで」と答えた。戻って来られる保証はない。ミラは方角を書いた小さな紙を渡し、危ない橋を赤く囲んだ。ティアが峠の向こうへ消えても、村の朝はいつもどおり始まった。待つ者がいることだけが、少し違っていた。




