一握りの種
畑の種を数える日、ハロルドは古い袋から麦を掌へ出した。粒には色の悪いものが混じっている。ミラは良い種だけを選ぼうと言ったが、全部を調べるには膨大な時間がかかる。農夫たちは腕を組み、春の忙しさを訴えた。彼女は作業を増やすのでなく、試しに一袋だけ選別することにした。
エダが粒の数を記し、ルークが十粒ずつ小皿へ分けた。水に浮く粒もあるが、それだけで悪いとは限らないとハロルドは言った。ニーナは小さな布に幾つかを包み、湿らせて芽の出方を見ようと提案した。手間はかかるが、播く前のわずかな量なら失うものも少ない。
種の試験を始めると、ルークは毎朝布を開いて芽を見たがった。ニーナは乾きすぎないよう水を少しずつ与え、日当たりを変えずに観察するよう教えた。見たいからと何度も触れば、柔らかい芽を傷める。少年は両手を背に隠し、布を覗くことだけにした。小さな白い根が出た日は、真っ先にミラへ知らせた。
ハロルドは試験に使った種を畑へそのまま混ぜるか迷ったが、場所を分けて植えることにした。育ち方を後から確かめられるよう、枝札へ印を付ける。農夫たちは毎年自分の経験で判断してきた。ミラはそれを否定せず、経験をほかの人にも伝わる形にしたかった。種の選び方は、土地の持つ癖と一緒に受け継がれていく。
数日後、古い種の中にも元気な芽が出た。逆に見た目の良い粒が全て育つわけではなかった。ミラは選別した袋の札に「良い」と書きかけ、代わりに「試した」と記した。結果は畑で確かめる必要がある。ハロルドは子どもたちへ一握りずつ種を分け、どの畝へ播くか教えた。村の春は一つの答えからではなく、幾つもの小さな試しから始まった。




