土の匂い
雪の縁から土が顔を出した頃、ハロルドは畑へ踏み込もうとした。春はまだ遠いが、今年こそ収穫を増やしたい。ミラは種の袋を見て、先に土の湿り具合を調べないかと尋ねた。冬の間に排水溝が詰まり、低地には水が溜まっている。去年も同じ場所の麦が倒れたという。
ニーナは薬草を育てる小さな畝を見せ、乾く土と水を抱く土の違いを話した。ミラは土を握って崩れるか確かめ、畑の端に試験区画を作ることを提案した。全体を一度に変えない。麦の種も貴重で、賭けに使えないからだ。ハロルドは最も痩せた畝を選び、別の畝は今までどおり残した。
土を調べる作業に来たルークは、湿った土を手で固めて泥団子を作った。ハロルドは怒ろうとしたが、ミラは崩れやすさの違いを見る手掛かりになると気づいた。もちろん遊ぶために種を踏んではならない。畝の外から少量ずつ取り、元の場所へ戻すようにした。子どもの手にも、土の違いははっきり伝わった。
試験区画の位置は、日当たりだけで決められなかった。傍らの木が朝の影を落とし、風の通りも違う。ニーナは同じ条件を完全に揃えるのは難しいと言った。ミラは「だから結果だけで決めない」と返し、畑で起きたことも一緒に書き留めることにした。何を試して何が変わったのか、分からない部分も残す。
夕方、指先についた黒土の匂いを嗅ぎながら、ミラは冬の麦袋を思い出した。秋に数えた不足はまだ消えていない。春に失敗すれば次の冬が苦しくなる。けれど焦って全てを変えれば、比較するものさえなくなる。畑には小さな枝札が三枚立った。雪の下で守ってきた種は、ようやく行き先を選ばれ始めた。




