閉じた納屋
村外れの納屋に、春へ残す種麦が置かれていた。扉には鍵が掛かっているが、持っているのはハロルドだけだった。彼が吹雪の中で倒れたら、誰も取り出せない。ミラが予備の鍵を作ろうと提案すると、ハロルドは顔を曇らせた。「盗まれたら誰が責任を取る」。種は食料よりも大切な時期がある。
ミラは鍵を増やすことを急がなかった。まず在庫を二人で数え、封をした袋へ印を付けた。次に村長の家で鍵を保管する案を出し、使う時は必ず二人以上で立ち会うよう決めた。ハロルドの持つ鍵を奪わない。村の共有物と個人の畑のものを混ぜない。二つの違いを帳面へ残すのに、思ったより時間がかかった。
種麦を数える間、ハロルドは袋の下へ置く板を丁寧に拭いた。湿った床に触れさせないためだ。ミラは共有の種と各家の種で印の色を変えたが、どちらにも重さを書いた札を付けた。責任が違っても、傷む危険は同じだった。種を扱う時には手を洗い、袋の口を長く開けておかない決まりもできた。
予備の鍵を作る作業は、ガルドに頼んだ。新しい鍵は古い鍵より回しにくく、何度か削り直す必要があった。ミラは一度だけ開いたからといって安心せず、ベルクとエダにも試してもらった。鍵があっても開けられなければ意味がない。ハロルドは二人の手元を見守り、納得してから袋の封を確かめた。
最後の袋を数え終えると、ハロルドは自分から予備の鍵を差し出した。「もし俺が倒れた時は、畑を頼む」。ミラは鍵を受け取らず、ベルクへ渡した。自分がいなければ開かない仕組みを作るつもりはなかったからだ。納屋の戸を閉めると、雪に埋もれた畑が向こうに広がっていた。まだ芽の出ない春を守るには、人の信頼も必要だった。




