薬棚の鍵
メイの熱が落ち着くと、家々からニーナへ薬草の相談が増えた。誰もが冬の間に病むことを恐れていた。ニーナの棚には乾燥葉や根が小袋に分けて置かれているが、何に使うかは彼女しか知らない。ミラは中身を書いた札を付けようと頼んだ。ニーナはすぐには賛成しなかった。「名前だけ見て飲まれたら困る」。
そこで薬草を誰でも取れるようにはしない。棚には鍵を付け、用途の記録はニーナと手伝いのエダが共有する。症状を伝える紙には、飲ませたものだけでなく、飲ませなかった理由も残した。ミラは簡単な文字で書ける欄を作ったが、間違えてはいけないことほど、略さないよう気をつけた。
薬草袋を並べる時、ニーナは匂いの似た二種類を取り出した。乾燥すると色も近くなり、素人には見分けにくい。ミラは札に絵を描こうとしたが、ニーナは葉の形だけでは間違えると言った。そこで見本を別の小箱へしまい、実際に使う前に本人が確かめる手順を残した。名前を覚えることと、安全に使えることは同じではない。
エダは鍵を預かる役について、家を離れる日の連絡方法を相談した。二人とも不在になる時は棚を開けず、町へ助けを求める。急ぐ事情が生じた場合にも、詳しく知らない薬を無理に使わない。ミラはその決まりが心許なく感じたが、知らないことを知っているふりはできなかった。棚の戸は重い音を立てて閉じた。
その日の夕方、粉屋のヨレンが腹痛を訴えた。ニーナは食べたものと痛みの場所を聞き、むやみに薬を出さずに休むよう勧めた。翌朝には落ち着き、薬棚は開かれなかった。薬の数を減らすことより、必要のないものを使わずに済むことが大切だった。ニーナは鍵をエダへ預ける時、「私がいなくても、勝手に混ぜないで」と念を押した。その約束はどんな帳面より重かった。




