谷の知らせは遅い
春を前に谷の村からの連絡が途絶えた。宿主は道が塞がっていると説明し、村人は水不足が悪化したのではないかと心配した。ミラも不安だったが、見通しの悪い峠へ人を送り込む案には反対した。伝言が届かない理由はまだ分からない。
数日後、別の宿場を経由して谷の手紙が届いた。雪崩ではなく、倒木で道の一部が塞がれたため、使者が安全な場所へ引き返したという。水の状況は改善していないが、井戸は使えている。谷では崩れた道を勝手に掘り進めず、郡の道役人へ知らせていた。
ニコは羊の飲み水の確保を心配していた。返事には、谷の羊飼いたちが給水場所を分け、移動を短くしていると書かれている。ハルヴェの仕組みをそのまま真似たわけではない。ミラは彼ら自身が決めたことを嬉しく感じた。
倒木を取り除く仕事には、谷の若者が集まりかけたという。しかし幹は斜面へ引っ掛かっており、動かせば雪と土が落ちる恐れがあった。谷の村長は素人だけで進めることを止め、遠回りの道を確認してから役人へ相談した。使者は『早くしろ』という声が多いと書いていた。ミラは焦る気持ちを理解しながら、無事に帰ってくる人を最優先にした決定に礼を伝えた。
倒木の知らせはグレサにも渡された。遠い谷の困りごとでも、峠を使う商人たちには関わりがある。フェルンは通行不能と決め付けず、閉じている区間だけを確かめた。誤った噂が広がれば、安全な道まで人が避け、谷へ届く物資がさらに減ってしまう。
届いた手紙の最後には、道が戻るまで急ぎの返事は求めないとあった。エダは予定表から返信期限を消した。連絡が遅れること自体を失敗にしなかった。ミラは谷へ向かう峠を見上げ、山の向こうにも今日の暮らしが続いていると感じた。




