よその村の帳面
郡都の役人が持ち帰った書式を、グレサでも使ってみたいと言ってきた。記録の仕方を学びに来た若い書記は、ハルヴェの帳面を見て目を丸くした。だが細かな欄を写すうち、グレサでは村人の仕事が違い、使わない欄が多いと気づいた。
エダは最初の備蓄表を示した。今の複雑な帳面も、必要に応じて増えたものだという。若い書記は一度に同じ仕組みを作ろうとしていたことを恥じたが、ミラは自分の村のやり方を考える方が難しいと伝えた。
グレサの牧夫は羊の移動を記録したい。畑の人は種の受け渡しだけ分かればよい。書記は別々の小さな紙を作り、書けない人からは印や口頭で教わる方法を考えた。全てを一冊に集めれば、書記が休めなくなるとエダが忠告した。
若い書記はハルヴェに来るまで、自分だけが計算を間違えると思っていたらしい。エダは最初のころ麦の量を数え違えた話をした。恥ずかしさから隠したくなったが、袋を量り直して間違いを発見できたという。書記は村へ戻ったら自分の帳面にも訂正の印を作ると決めた。完璧な人の真似ではなく、間違いを直せる仕組みを持ち帰る。その考えにミラは静かに頷いた。
グレサの若い書記は、帰り道で馬を休ませながら白紙の端へ家々の名前を書いた。誰かの手伝いが要る場所には丸を付けたが、まだ人を割り振らない。村の者の予定を聞いてから決めるつもりだった。急いで表を埋めないことも、ハルヴェで覚えた仕事の一つになった。
帰りの馬車で、若い書記は真っ白な紙を何枚も持っていた。完成した帳面ではない。ミラはそのことを嬉しく思った。誰かがやり方を聞きに来ても、渡せるのは自分たちの答えではなく、考えるための材料だった。春の夕方、グレサへ続く道はまだぬかるんでいた。




