紙に引けない川
グレサの村長が二枚の古地図を持ってハルヴェを訪れた。一枚は川が東へ曲がり、もう一枚は西へ曲がっている。両村の老人はそれぞれ違う大水を覚えていた。どちらも自分の記憶を大切にしており、相手に譲る気配はない。ベルクは会議の席を増やしたが、人が増えるほど声は大きくなった。
ミラは地図を隣に並べ、同じ年の図ではない可能性を指摘した。エダが紙に記された年号を読み、グレサの老人は洪水の翌春だったと語った。年月が違えば川筋が異なるのも不思議ではない。ただし現在の所有権を決める根拠になるかは別問題だった。
測量師が来るまで土地の利用を止めればよいという案には、牧夫が反発した。羊は毎日食べる。ハロルドも河原の草を畑の敷き草に使っていた。両村は当面の通行と採草だけを共同で決め、土を掘ることや柵を建てることを保留にした。
古い地図の一枚には、現在はない渡し場の印があった。そこを使えば橋を通らずに済むのではないかと若者が尋ねたが、川の深さも流れも昔とは違う。バルドは安易な試行を止め、古図の記号が本当に渡し場なのかまで確かめるよう言った。グレサの老人は、そこに舟があったのは大水の前だけだと記憶していた。ミラは便利な答えが見えた時ほど、今の川を見ずに飛びつかないよう気を付けた。
写しを作る時は、古い紙の折り目まで無理に伸ばさなかった。見える線だけを慎重に写し取った。
帰り際、グレサの老人は川に向かって深く帽子を下げた。亡き兄と魚を捕った場所が、もう水の下だという。ミラは誰の畑でもない場所の話が、誰かの思い出でもあることを知った。境界の線はまだ紙に引かなかった。




