消えない足跡
夜の雪に、橋の通行止めの柵まで続く足跡が残っていた。帰った跡が見当たらず、見張りたちは誰かが落ちたのではないかと青ざめた。オスカーは暗い川岸を探すことを止め、安全な場所から声を掛けた。返事はない。ミラは村の家々で行方の分からない人がいないか確かめた。
朝、足跡の主が分かった。グレサから来た牧夫が古い道へ入り、柵の手前から雪の薄い岩場を通って戻ったという。危険な近道をしたことは確かだが、落水事故ではなかった。牧夫は責められると思い、黙っていたらしい。
ベルクは厳しく罰そうとした。しかしグレサとの取り決めにない罰を即席で課せば争いになる。ミラは村長同士で事情を話すよう勧め、まず危険な道の案内を直した。雪の積もり方が変われば、足跡のない場所が安全に見える。
牧夫は岩場が近道に見えた理由を地図に示した。以前、別の場所にあった道標を雪が埋め、古い標識だけが目立っていたという。オスカーは標識の位置を確かめたが、濡れた斜面へ降りて移す作業は断念した。雪解け後に道の担当と一緒に直すことになった。ミラは牧夫が危険を隠さずに話してくれたことへ礼を言った。責任を追及する場とは別に、知っている危険を伝えられる場が必要だった。
岩場の見取り図には、日陰の場所も描き添えた。晴れた日にも凍ることがあるからだ。
牧夫は後日、自分が通った岩場の危険を詳しく説明した。オスカーは見取り図へ書き込み、雪解け後に崩れ具合を確かめると決めた。ミラは川の向こうへ消えたように見えた足跡を思い出した。人を探す時には勇気が要る。だが焦りで探す者まで失わない慎重さも必要だった。




