宿場の知らせ
峠の宿へ届く木札の数が増え、宿主からこれ以上は預かれないと通告があった。谷の水の連絡だけでなく、行商の到着や荷の問い合わせまで集まり始めたのだ。フェルンは札を大きくして数を減らそうと言ったが、一枚へ多くの用件を書くと取り違えが起きる。
ミラは宿主の仕事を見に行った。夕食を作る妻が伝言の受け取りまで手伝い、二人とも客の世話に追われている。宿には冬の旅人を泊める役割がある。ハルヴェが便利になった代わりに、この家の休む時間を奪っていた。
宿主は試しに、札を預かった時刻と受け渡した時刻を木の板に記した。時間を確かめるためではなく、夜中に届いたものを翌朝まで預かる場合の行き違いを防ぐためだった。ところが札を確認するだけで仕事が増え、娘が食器を片付ける時間を取られた。ミラは細かな記録も負担を生むと認め、緊急の札に限って必要な時刻だけ書くよう改めた。宿の食卓が遅くならずに済んだ夜、宿主は初めてこの仕組みを続けられそうだと笑った。
ベルクと宿主は、命に関わる緊急連絡と、商売の普通の伝言を分けることにした。後者はフェルンが市場の日にまとめて運ぶ。宿主は急ぎの札でも必ず届けられるとは約束せず、閉める時間を入口に示した。
その日の最後の客は、食事が温かいまま出てきたことを喜んだ。宿主は苦笑した。
帰り際、宿主の妻がミラへ焼いた芋を渡した。『伝言より温かい食事を先に出したい日もあるんだよ』と言う。ミラは受け取りながら、便利な道を長く残すには、通り道の人が損ばかりしない仕組みが必要だと思った。木札は以前より少なくなったが、宿の灯はいつもの時刻に消えた。




