貸した木箱
エダの書類を入れる木箱を、グレサの使者が一時的に借りたいと言った。湿った地図を安全に運ぶためだった。木箱は頑丈だが、蓋の留め金が少し緩んでいる。使者はその程度なら平気だと笑った。ミラは急がないのなら修理してから渡したいと答えた。
ギルが金具を直していると、箱の底から小さな紙片が出てきた。先代の年貢帳に挟まっていた、橋の通行料の控えだった。字は薄れ、日付の一部も読めない。ベルクは古い権利の証拠かもしれないと身を乗り出したが、エダは断片だけでは決められないと言った。
紙片の字を読もうとして、エダは窓辺へ寄った。陽に透かしても消えた部分は戻らない。ベルクは村の老人へ見せようとしたが、いつ誰が書いたか分からない紙を記憶の証拠として扱うのは危うい。ミラは裏面も写し、折り目を傷めないよう薄い布へ包んだ。調べる機会が来るまで、見つけた場所も一緒に残すことになった。
グレサの使者は控えを見たがった。川の向こうでは橋の維持費を以前どちらが負担したか、いまだ言い争っているという。ミラは紙片を隠さず、ただし写しを作って互いに持つことを提案した。今の橋を直す費用と、昔の通行料を誰が取ったかは別の問いだ。
木箱の修理が終わると、使者は地図を入れ、蓋が閉まるか何度も確かめた。エダは箱の中に乾いた布を敷いて返却日を書いた。貸し物を受け取った使者は、古い控えのことを自分の村でも探すと約束した。ミラは箱が空になった棚を見て、渡せる物と渡してはいけない判断を間違えないようにしたかった。古紙は争いの火種にも、話し合いの手掛かりにもなり得る。




