代金のない修理
ギルの工房へ、屋根板の修理を頼む家が増えた。冬の薪も足りない中、板を作るだけで夜が更ける。ギルは「村のため」と言い続け、代金を受け取っていなかった。ミラが工房を訪ねた日、彼は指の皮を剥き、刃物を落とした。「休まないと」と言うと、「休めば屋根が落ちる」と返ってきた。
そこで彼女は修理依頼を緊急順に並べた。雨漏りで寝床が濡れる家、次の嵐で危ない家、春まで待てる家。それぞれ当事者にも見てもらい、順番を決めた。代金を払えない家は、ギルの薪運びや作業場の掃除を引き受ける。だが本人が望まない仕事を押し付けないよう、交換条件は工房に掲示した。
屋根の修理順を決める会議で、一人の男が「うちは去年から頼んでいる」と怒った。ミラは古い依頼を軽く扱いたくなかった。ギルに傷みを確かめてもらうと、その家は雨漏りこそ少ないが、梁の一部が浮いていた。修理の優先度を上げ、後から加わった家にも理由を話した。順番を決める数字は、家そのものを見なければ使えない。
工房で手伝うユナは、父の刃物には触れず、寸法を測る仕事を覚えた。夕方には測り間違えた板が一本あったが、ギルは怒鳴らず、使える短い部材へ切り直した。無駄を完全になくせるわけではない。それでも失敗した人を責めるだけでは、次に手伝う人がいなくなる。ミラはその様子を黙って見ていた。
ギルは翌日、半日だけ工房を閉めた。その間に見習いの娘ユナが木板を寸法どおりに揃えた。誰かが手伝える仕事を見つけておけば、職人が倒れても全ては止まらない。夜、ギルは初めて温かい食卓で眠気を覚えた。「村のために働くなら、俺も村人だもんな」。ミラは笑ってうなずいた。支える人間を数から外しては、何一つ守ったことにならなかった。




