谷の桶の印
谷の村から届いた木片には、井戸の水位を刻んだ十本の線があった。三日に一度、同じ桶で汲んだ深さを知らせてくれたのだという。しかし印が深さを示すのか、桶を下ろした縄の長さなのか分からない。ギルは谷で測り方を教えたつもりだったが、伝えた者が途中で別の縄を使い始めたらしい。
ミラは数字だけで水が増えたとも減ったとも言えないと話した。谷の使者が困った顔をすると、エダは失敗ではないと言い、最初の印を付けた場所と桶の形を紙に描いてもらった。村ごとに道具が違えば、比べ方も違う。水を数える前に同じものを測っているか確かめなければならない。
谷からの木片には、小さな丸が三つ描かれていた。誰かの間違いかと思うと、実は縄の結び目の数を表す印だった。エダは紙の余白にその意味を書き、次に同じ道具を使う時の手掛かりにした。数字の下にある暮らしを知らなければ、帳面の線だけを並べても役に立たないとミラは感じた。
谷では川上の湧水を羊にも飲ませていた。飲み水を先に確保したい家と、羊を失えば春の暮らしが立たない家が揉めている。ミラは羊を捨てるよう命じず、使者とニコに必要な量を分けて考えてもらった。ニコは寒い時期の家畜の世話を知っていたが、谷の草場や水源のことまでは知らない。
使者は新しい測定用の印を作るため、谷へ戻った。持ち帰ったのはハルヴェの規則ではなく、何を測るのか尋ね直すための紙だった。リネがその紙に水桶の絵を添えた。読み書きのできない者にも伝えたいという。ミラは絵を見て、よその村を守る第一歩が、こちらのやり方を押し付けないことだと改めて思った。




