よそ者の鍋
谷の村から水の調査に来た一家が、ハルヴェにしばらく滞在することになった。母親は共同鍋の仕組みを聞き、すぐ自分の故郷でも始めようとした。サラはまず、皆が食べる時間を合わせられるか尋ねた。
谷の村では羊飼いが早朝に出発し、農夫は日が昇ってから働く。火を焚ける家は少なく、共同の食事場所もない。母親は鍋を大きくすればよいと思っていたが、食べに来られない人のことを考えていなかった。
ミラはハルヴェでも初めから大鍋がうまくいったわけではないと話した。壊れた鍋、足の悪い人、薪の負担。今は家ごとに小鍋を動かしている理由を聞き、母親は考え込んだ。
帰る前、母親は谷で一軒ずつ食事を分け合うところから試したいと言った。大きな鍋は持ち帰らない。その代わり、誰が困った時に声を掛けられるか調べる紙をエダから受け取った。
谷の母親は自分の村では食事を分けることを嫌う家もあると話した。昔の争いがまだ残っているのだという。サラは無理に仲直りさせず、協力したい家から始めればよいと答えた。ハルヴェでも最初は全員で鍋を囲んでいなかった。母親は紙に村の家々の名前を書きかけ、他人の事情まで勝手に決められないと気づいて筆を止めた。ミラはその慎重さを嬉しく思った。新しい仕組みは誰かの意志の上にしか立てられない。谷の家族は鍋の数を聞いて驚いた。サラは増えた理由を、冬の寒さと家ごとの事情を交えて静かに話した。
夕暮れ、サラは空の器を洗いながら、よその村の台所を想像した。ミラは同じ料理でも、暮らす人が違えば作り方も変わると感じた。助け合いに決まった形はなかった。




