峠の書き置き
峠の宿から、連絡木札が一枚返ってこないと知らせがあった。最後に持った運び手は別の道へ向かったらしい。フェルンは盗まれたかもしれないと疑ったが、荷が無事に到着したという情報もあった。
ミラは札が戻るまで仕組みを止めるのか、別の札を使うのかを相談した。エダは番号を照らし合わせ、誰がどこまで確認したか書いた。札が失われた時に誰かをすぐ罰すれば、次から失敗を隠す人が出る。
数日後、札は隣の宿の引き出しから見つかった。代わりの店番がしまい込み、持ち主を知らなかったという。悪意はなかったが、到着の報告も届いていなかった。宿主は店番へ札の意味を伝えるよう約束した。
木札の表には行き先の絵を、裏には返す場所の名を刻んだ。文字が読めない人にも伝わる工夫をしたが、すべての宿で通じるかはまだ分からない。小さな範囲で再び試すことになった。
札が見つかるまで、荷の到着を知りたい人たちは宿へ個別に尋ねていた。問い合わせが集中し、宿の主人は本来の仕事が手に付かなくなったという。ミラは村の窓口を一人に決める案を出したが、その人が休む日には困る。エダとフェルンが交代できる簡単な書き置きを用意し、知らせるべき内容を短くまとめた。便利な仕組みが新しい負担を生むなら、使い方から見直さなければ続かない。宿の引き出しには別の旅人の落とし物も入っていた。宿主は見つけた札を機に、預かり物の印を付け直した。
夕方、フェルンは札を手のひらで転がした。「木は勝手に帰ってこないからな」。ミラは笑った。物が行き来する道にも、それを確かめる人と、教える時間が必要だった。




