銅貨より先に
冬支度の終わりに、商人の荷車が村へ来た。隊長のフェルンは塩と針、それに少しの油を積んでいた。例年なら農家が慌てて麦を差し出し、必要な物を買えるだけ買う。今年、ミラは村長へ先に品目と数量を調べようと提案した。フェルンは待たされるのを嫌がったが、秤を使って正しく量ると聞き、荷を下ろした。
塩を買いたい家は多い。だが麦が少ない。ミラは「買うな」とは言わなかった。食べ物を保存するために必要な塩と、今なくても困らない飾りを分けて書いただけだ。家々の希望を並べた結果、一緒に買える分があると分かった。フェルンは小袋を一つずつ作る手間を省けるなら、幾らか値を下げると言った。
フェルンは広場で秤を見せ、自分の重りと村の重りを比べた。古い秤では少しの差が出る。ミラはどちらが正しいと決めつけず、重さが確かな石を基準に何度も量った。商人は面倒そうにしていたが、そのうち袋の口を自分から開いた。疑い合わずに取引するには、確かめる手間が必要だと彼も知っていた。
塩を分ける順番では、共同鍋を優先するか、各家庭へ先に渡すかでもめた。サラは鍋の分を減らせると言い、エダは家庭の保存食も大切だと返した。ミラは用途ごとに必要量を出してもらい、各家の注文を勝手に削らないようにした。注文書には、買えなかった品物も残した。次の荷車で何を探すべきか分かるように。
夕刻、ルークが一枚の銅貨を握って彼女を追ってきた。「お礼」。ミラは首を振り、「塩をちゃんと蓋して」と答えた。報酬より先に、村の支払いが間に合うことを確かめたかった。フェルンは帰り際、村の帳面を眺めた。「辺境の村で、こんな買い方をするとはね」。褒めたのか訝しんだのか分からない。ミラは荷車の跡を見送り、翌日の鍋に使う塩を少しだけ量った。




