権利書の余白
リネの契約について、郡都の相談所から文書が届いた。以前の雇い主が主張する労働期間と、リネが実際に働いた時期に食い違いがあるという。契約の原本を持つ者が現れなければ、すぐ結論を出せないと記されていた。
ティアは文書を読み終え、怒りを隠さなかった。妹が働いた場所を知っているのに、証拠がないだけで疑われるのか。エダは彼女の気持ちを受け止めつつ、相談所が求める日時と人名を一つずつ確認した。
ミラはリネ本人が話したくないことまで広場に出さないよう頼んだ。峠の宿で一緒に働いた女性へ手紙を送る案が出たが、相手に危険が及ぶ可能性もある。まず相談所へ、証言を集める方法そのものを問い合わせた。
リネは小さな声で、自由になったらどこへ行けばよいのか分からないと言った。ティアは一緒に暮らせばよいと答えたが、レアは仕事を続けるかどうかも本人が決めてよいと伝えた。契約から離れることと、新しい暮らしを選ぶことは別の難しさがある。
リネは返事を書く前に、自分の名前を何度も練習した。紙の端に書くたび形が変わり、以前の契約にある印と比べて不安になる。エダは字が上手かどうかで本人の言葉の価値が変わらないと伝えた。ティアは相談所からの返事を急ぎたがったが、本人が考える時間を守ると約束した。ミラは村が代わりに決めてしまわないよう、質問のある時だけ隣に座った。冬の窓から差す光の中で、リネは最後の一行を書き終えた。
手紙はまだ返信用の封筒を残していた。ミラは急いで勝った負けたを決めず、リネが自分の名前で返事を書けるよう、エダに相談した。少女は時間を掛けて文字をなぞり、その紙を自分で折った。




