鳴らさない鐘
見張り台には古い鐘が一つあった。鳴れば誰もが起きる。しかし去年、狐を狼と見誤った夜に鐘が鳴り、子どもたちが寒い広場へ走り出したことがある。村人は鐘を嫌い始めていた。ミラは夜番のトビアスから林の灯りの話を聞き、どう知らせるべきか考えた。
ベルクは鐘を増やす案を出したが、ガルドは鉄が足りないと答えた。そこで音の数を決めることにした。一打は見張り同士の連絡、連続三打は家から出ず戸締まり、長く打つのは火災や退避が必要なとき。混同しないよう昼間に練習をした。オル婆は耳が遠く、音を聞き分けられないと言った。隣家の少年が戸を叩く役を引き受けた。
鐘の練習には、鍛冶屋の仕事を一度止める必要があった。ガルドは忙しい顔をしたが、火の始末を済ませると広場へ出てきた。彼が打つ金属音と見張り台の鐘を聞き分けられるか、村人たちは耳を澄ました。思ったより似た音が響き、練習はやり直しになった。鐘を使う時には鍛冶屋も作業を止める約束が生まれた。
オル婆の隣家を頼まれた少年は、夜の戸叩きを怖がった。そこで母親が最初の数回は同行し、叩き方と声の掛け方を教えた。急ぐ時に相手を驚かせすぎないようにする。ミラは練習の記録へ、音が聞こえなかった家も書き込んだ。訓練で分かった不足を、失敗として隠すことはしなかった。
練習の日、子どもたちは鐘の音で笑った。大人は半ば照れながら扉を閉め、火を確かめた。けれど犬が吠えたとき、ミラは胸が締まった。仕組みを決めても恐怖は消えない。夜が来れば、誰かが暗がりを見るのだ。鐘に新しい縄を付けたガルドは「鳴らす必要のない夜が一番だ」とつぶやいた。その夜は何も起こらなかった。村人はその静けさを、以前より少し大切にした。




