峠の帰路
グレサへ出向いたニーナが戻る日になった。朝から峠には霧がかかり、予定の時刻を過ぎても姿が見えない。オスカーは探しに行こうとしたが、霧の中で人を増やせば、行き違いの危険がある。ミラは約束した連絡場所を確かめた。
日暮れ前、山道の分岐点から合図の布が見えた。ニーナは足を傷めた付き添いを休ませていただけだった。出産の仕事は無事に引き継がれ、寝込んだ産婆には休息が必要だという。詳細を村中で聞き出さず、本人の口から必要なことだけベルクへ伝えた。
グレサからは礼として干した豆が届けられた。ニーナは対価を受け取らないつもりだったが、オル婆は薬と靴を使った分があると言う。両村の代表は、今回の費用と今後の助け合いを別々に話すことにした。
ニーナは翌日も休んだ。山越えの疲れは帰ってから現れる。サラが食事を運び、村の病人に急な変化がないことを確かめる。誰かを助けた人が倒れてしまえば、続けられる支援にはならない。
ニーナが休んでいる間、オル婆は彼女の家へいつもと同じ量の水を運んだ。手伝いが必要か尋ねられたニーナは、静かに眠れるだけでよいと答える。グレサから来た豆の包みは、家の奥でなく共同の記録台に一度置かれた。個人への謝礼か村への礼か決めていなかったからだ。後日、贈り主に確認することになり、ニーナはその慎重さに笑った。助けた喜びを数えるより、次に無理なく行けるか考えたいと言った。
霧が晴れた峠には、濡れた小石が光っていた。橋が直らない限り往来は不便なままだ。それでも山の向こうに助けを頼める人がいることを、二つの村は確かめることができた。




