代筆の印
リネの契約を巡り、村の会議は長引いた。ベルクは以前の雇い主へ手紙を送るべきだと言い、ティアは返事が来るだけで怖いと訴えた。ミラは誰かが代わりに契約を決めてしまわないよう、リネ本人が知っていることを聞く場を別に設けた。
リネは当時、紙へ指先を押し付けるよう命じられたと話した。文字を知らず、何に同意したのか分からなかった。エダは指印があるからといって、契約内容が理解されていた証拠にはならないと考えた。しかし法律上どう扱われるかまでは知らない。
フェルンは郡都に文書を扱う書記を知っていると話した。相談料は安くないが、契約の写しを確認する方法を教えてくれるという。ミラは村の共同金から出すか迷ったが、これはまず姉妹の権利に関わる話だ。ティア自身が相談したいか、支払いをどうするか聞いてから決めた。
姉妹は市場の売上から少しずつ払うと言った。レアは二人の稼ぎを使い切らせたくなくて、仕事場の共同費から一部出すと申し出た。助けることと、本人が選ぶことを両立するには、話し合いが要った。リネは自分で相談へ行きたいと言った。
レアは新しい仕事を受ける時、契約の控えをリネにも見せるようにした。金額や納期だけでなく、途中でやめる時にどうするかも読み上げた。最初は面倒がる客もいたが、間違いを減らせるとフェルンが説明してくれた。少女が自分の仕事を確かめられる場所を、少しずつ増やしていった。
帰り際、ミラはリネが書いた新しい名前を見た。筆圧の弱い字だったが、誰かの代筆ではない。少女は紙を折り、服の内側へしまった。自分が何に署名するかを知ることは、働くことと同じくらい大切なのかもしれなかった。




